鋼の錬金術師から仕事で学べること|大人になって刺さる名言と仕事観

鋼の錬金術師から仕事で学んだこと

「『鋼の錬金術師』から仕事で学べることは何か?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

ハガレンには,仕事や人生に持っていきたくなる言葉が山ほどあります.「立って歩け」「主婦だッ!!!!!」「理想を語れなくなったら」「やらない善よりやる偽善だ」.名言だけ拾っても一本の記事ができる漫画です.

でも,僕が大人になってからハガレンに感じている魅力は,名言そのものよりもう少し奥にあります.

ハガレンって,ものすごく人間臭いんですよね.肩書きが立派でもクソみたいな人はいるし,敵にも守りたいものがある.正しいことを言っている人同士がぶつかるし,欲望も嫉妬も愛も自己犠牲も全部出てくる.

だから仕事に置き換えても,「この名言を実践すれば仕事がうまくいく」みたいな綺麗な話にはならない.むしろ僕が学んでいるのは,役職より人を見ること,正論だけで人を切らないこと,そして言葉の裏にある思いを見ることです.

ハガレンは,錬金術の漫画なのに,最後まで読んだ感想はめちゃくちゃ人間ドラマなんです.

では蓋を開けてみよう.

https://link.amazon/B02RhDguX

「立って歩け」は,失ったものではなく残っているものを見る言葉

ハガレンの序盤で,僕がずっと好きな場面があります.何かにすがっていた人がその支えを失ったあと,エドが前へ進めと伝える場面です.

「立って歩け 前へ進め」

かなり厳しい言葉です.でも僕は,仕事で失敗したときほどこの言葉が刺さります.

仕事で失敗すると,失ったものばかり見てしまいます.信頼を失った.お金を失った.時間を失った.特に僕は時間を無駄にした感覚がめちゃくちゃ嫌いなので,「あれだけ時間を使ったのに」と考え始めるとかなり引きずります.

ただ,失敗したあとに残っているものもあります.経験は残る.失敗した理由も残る.一緒にやった人が残ることもあるし,次に同じ失敗をしないための材料も残る.何より,自分自身はまだそこにいます.

僕はこの場面を見ると,ONE PIECEで大きなものを失ったルフィが,まだ残っている仲間に気づく場面も思い出します.ワールドトリガーの三雲修もそうですが,結局できるのは「今持っているもの」で次へ進むことです.

失ったものをなかったことにはできません.でも,失ったものだけを見続けても前には進めない.

まだ立派な足がついているなら,また歩けばいい.

僕にはそう聞こえます.

https://www.d-life.nucleotide-blog.com/comic/world-trigger-work-leadership

「主婦だッ!!!!!」がカッコいいのは,肩書きを外してもイズミだから

僕がハガレンで特に好きなキャラクターの一人が,イズミ・カーティスです.エドとアルの師匠で,錬金術師としても戦闘でもめちゃくちゃ強いのに,何者かと問われて名乗るのは「主婦」です.

「主婦だッ!!!!!」

これがめちゃくちゃカッコいい.

僕は,肩書きで仕事をする人が嫌いです.「課長なんだから」「部長なんだから」「部長が言ったから」「部長が決裁したから」みたいな話をされると,本当にどうでもいいと思ってしまいます.

クソ喰らえです.

もちろん会社では役職が必要です.誰が決めるのか,誰が責任を負うのかを明確にするための権限としては意味があります.でも,役職が上がった瞬間に人間として偉くなるわけではありません.

僕がカッコいいと思うのは,「あの人が課長だから話を聞こう」ではなく,「あの人の言うことなら聞いてみよう」と思われる人です.肩書きを取った瞬間に誰も話を聞かなくなるなら,その影響力は本人ではなく椅子が持っていたものです.

イズミは逆です.主婦と名乗ろうが,何も名乗らなかろうが,イズミはイズミです.

肩書きを外しても強い.

僕はそういう人でありたいです.

スカーまで名前を捨てているのが,またカッコいい

この話でいうと,スカーもかなり好きです.彼は「傷の男」という通称で呼ばれ,本名すら作中では明かされません.

もちろん,スカーが復讐の中でやってきたことを肯定する話ではありません.でもキャラクターとしてカッコいいと感じる理由の一つは,イズミと同じように肩書きや名前の外側に立っているところだと思っています.

一方で,ハガレンの軍上層部には肩書きだけならものすごく偉い人間が大量にいます.その中には,偉そうにしているだけに見える人もいる.

この対比が好きなんです.

会社でも,名刺に何と書いてあるかと,その人自身が何者なのかは別です.博士号を持っている,管理職である,専門職である.そういう属性はその人を説明する材料にはなりますが,その人そのものではありません.

役職を取ったあと,何が残るのか.

ハガレンを読むと,僕はそっちを考えます.

アームストロング少将は,理想を守るためなら権力まで利用する

ここまで肩書きをボロクソに言いましたが,会社で仕事をする以上,権力を無視することもできません.そこで僕が好きなのが,オリヴィエ・ミラ・アームストロング(氷の女王)です.

アームストロング少将は強いし,芯もある.部下への愛もある.でも,ただ正面から「私は正しい」と叫び続ける人ではありません.必要なら上層部に取り入るし,従っているようにも見せる.

したたかだけど,芯がある.

僕はここがかなり好きです.

現実の会社でも,自分と価値観が合わない人が権限を持っていることはあります.その人が予算や人員を握っているなら,「俺は肩書きなんて気にしないから」と突っ張って終わるわけにはいきません.

自分がスッキリすることと,チームを守ることは別です.

必要なら頭を下げる.相手に伝わる言い方をする.相手の価値観に合わせる.うまく懐に入ることだって必要だと思います.それでチームに必要なものが取れるなら,僕はやります.

ただし,自分の芯まで相手に渡す必要はない.

権力に従うために権力を見るのではなく,自分が守りたいものを守るために権力を使う.僕がアームストロング少将から仕事へ持っていきたいのは,そういうしたたかさです.

エドとウィンリィを見ると,「言葉ではなく,その裏にある思いを見ろ」と思う

エドとウィンリィも好きです.この二人はどう考えてもお互いを大切にしていますが,表現の仕方も行動の仕方も全然違います.

エドは自分で背負って前へ進もうとする.ウィンリィは心配する.同じ相手を大切に思う気持ちがあっても,片方には「やらなきゃいけない」に見えて,もう片方には「なんでそんな無茶をするの」に見える.

仕事でも,同じことは普通にあります.慎重に進めたい人と,早く進めたい人.品質を守りたい人と,まず試したい人.リスクを減らしたい人と,挑戦したい人.

表面だけ見れば「なんで反対するんだよ」となります.でも,その人は本当に邪魔したいのでしょうか.顧客を守りたいのかもしれないし,チームを守りたいのかもしれない.過去に痛い目を見たから怖いのかもしれません.

だから僕は,仕事でもこう思っています.

言葉ではなく,その裏にある思いを見ろ.

何でも「相手にも事情があるから」で許せという話ではありません.ダメなものはダメです.でも,目の前で発せられた一言だけを,その人の全部だと思わないようにはしたいです.

ヒロアカの記事で「気を遣って,喧嘩しろ」と書いたのも,たぶんここにつながっています.本気で相手と仕事をするなら,ぶつかること自体を避けるのではなく,なぜ相手がそう言っているのかまで見たうえでぶつかりたいです.

https://www.d-life.nucleotide-blog.com/comic/my-hero-academia-work-lessons

マスタングの「理想を語れ」は,現実を知ってしまった技術者に刺さる

仕事という意味では,ロイ・マスタングも外せません.僕に特に刺さるのが,現実を知ったうえで理想を捨てない姿勢です.

作中には,理想を語れなくなったら人間の進化は止まる,という趣旨の言葉があります.

技術者には刺さりすぎます.

技術者って,経験を積むほど「できない理由」を見つけるのがうまくなると思っています.この条件では性能が出ない.コストが高い.制度上難しい.安全上まずい.過去にも失敗した.全部,知識と経験があるから分かることです.

だから,できない理由の方が先に答えが出る.

僕も仕事で「これは難しいです」と言われることがあります.その理由が技術的に正しいことも多いので,単純に「いや,やれよ」と返しても意味がありません.正しいことを説明したのに否定されたら,相手だって「正解なのに」と怒ります.

そこで必要なのは,できない理由を消すことではなく,その条件を理解したうえで「もしやるなら,何を変えればできる?」と考えることだと思っています.

現実を知らずに理想だけ叫ぶのは簡単です.逆に,現実を知った結果として「無理ですね」で全部終わらせるのも簡単です.

難しいのは,現実を知ったうえで理想を語ることです.

僕はマスタングを見ると,技術者ほどそこを忘れちゃいけないと思います.

「やらない善よりやる偽善」は,自意識より行動を選ぶ言葉

僕が昔からよく思い出すハガレンの言葉に,「やらない善よりやる偽善だ」という言葉があります.

誰かのために何かをしようとしたときって,意外と自分の方を見てしまいます.「迷惑だったらどうしよう」「余計なお世話かな」「ちょっと恥ずかしいな」と考えて,結局何もしない.

もちろん,相手の意思を無視して押し付ければいいという話ではありません.でも,「自分がどう見られるか」が怖くて何もしないくらいなら,僕は動いた方がいいと思っています.

善人に見られたいのか,本当に相手のためなのか,自分が満足したいだけなのか.人間の動機なんて,そんなに綺麗に切り分けられません.

だったら,動いた結果として誰かが少し助かるなら,それでいいこともある.

僕はこの言葉を,善と偽善の哲学というより,「自意識に負けて行動をやめるな」という言葉として持っています.

グリードが魅力的なのは,「欲しい」を隠さないから

ハガレンでもう一人,めちゃくちゃ人間臭くて好きなのがグリードです.名前からして「強欲」で,金も地位も仲間も,欲しいものを欲しいと言います.

普通なら「欲張るのは悪いことです」で終わりそうなのに,グリードは妙に魅力的です.

僕は,「欲しい」を素直に言うことってかなり大事だと思っています.仕事でも,昇進したい,この仕事がしたい,もっと評価されたい,この技術をやりたい,このポジションが欲しい,みたいな気持ちは普通にあります.

でも会社に入ると,それを綺麗な言葉へ変換しがちです.「組織貢献のために」「成長のために」「会社の未来のために」.それも本当なのかもしれませんが,その下にある「俺はこれが欲しい」まで全部隠すと,人間味がなくなります.

欲しいものを素直に言うことは,素直にぶつかり合えることでもあると思っています.

もちろん,全員が欲望だけ叫び始めたら組織は崩壊します.だから欲望のまま全部通せという話ではなく,誰が何を欲しがっているのかが分かった方が,むしろ話はできます.

ハガレンは,人間の欲を「汚いから消しましょう」で終わらせない.そこも好きです.

ホムンクルスの組織は,トップオーダーすぎる

ここまで人間の話をしてきましたが,組織として見ると敵側もかなり面白いです.

ぶっちゃけタイム開始です.

ホムンクルス,組織としては全部ダメです.トップオーダーすぎる.

「お父様」の大きな目的があり,そこから命令が降りてくる.個々のホムンクルスには強烈な個性があるのに,組織の意思決定として見るとかなり中央集権的です.

この世の漫画,だいたい組織がワンマンなんですよ.

漫画としてはその方が分かりやすいし,強烈なトップが全員を動かすのはカッコいい.でも,現実の大きな組織はそんなに単純ではありません.

情報も権限も分散しています.技術を一番知っている人と,予算を決める人と,人事権を持つ人と,顧客と話している人が違う.トップが全部を知って正しい命令を出すなんて無理です.

だから現実では,人を信じて任せること,専門家の話を聞くこと,現場の情報を上へ持っていくこと,違う立場の人をつなぐことが必要になります.

僕は,強いトップ一人で動く組織より,ちゃんと人間同士がつながって動く組織の方が好きです.

「主婦」と名乗るイズミと,権力を使うアームストロング少将は矛盾しない

ここまで読むと,「肩書きなんてクソ喰らえと言いながら,アームストロング少将みたいに権力を使うのは矛盾してない?」と思うかもしれません.

僕は,矛盾していないと思っています.

肩書きを自分の価値だと思うことと,肩書きに付いている権限を道具として使うことは別です.イズミは肩書きがなくても強い.アームストロング少将は肩書きと権力を使いますが,それに自分自身を支配されているようには見えません.

僕が嫌いなのは,役職そのものではありません.役職を根拠に人間の価値まで上下させることです.

会社では,権限が必要な場面があります.その権限を使って人を守れるなら使えばいい.上の人へ働きかけてチームの仕事を進められるなら,やればいい.

ただ,椅子から降りた瞬間に何も残らない人にはなりたくない.

ハガレンには,その違いを考えさせるキャラクターがたくさんいます.

ハガレンの最後が「人生」なのが,この漫画の全部だと思う

ハガレンは,等価交換というものすごく分かりやすいルールから始まります.何かを得るためには,何かを差し出さなければならない.錬金術の漫画として,かなり理系っぽい入口です.

でも物語が進むほど,そんなルールだけでは測れないものが増えていきます.友情,信頼,愛,命,罪,赦し,欲望,自己犠牲.数値にもできないし,綺麗に交換もできません.

だから僕は,最後にエドたちがたどり着く答えが好きです.あえて多くは語りません.ぜひマンガで結末を見てください.感動します.錬金術ですべてを解決する話ではなく,最後は人間として生きる方へ戻っていく.

めちゃくちゃ長い時間をかけて答えにたどり着くところまで含めて,人生みたいです.

仕事も同じで,制度,役職,評価,数字,ルールはいくらでもあります.でも最後に残るのは,この人を信じられるか,この人を守りたいか,自分は何が欲しいのか,何を失ってもまだ何が残っているのか,みたいな話だったりします.

だから僕はハガレンを読むと,仕事のノウハウより人間のことを考えます.

すごい人間ドラマなんだよなあ.ハガレンって.

鋼の錬金術師から仕事で学んだのは,人を肩書きや正しさだけで見るなということ

改めて並べると,僕が好きなキャラクターはバラバラです.エド,イズミ,オリヴィエ,マスタング,グリード,スカー.立場も思想も全然違います.

でも僕が共通してカッコいいと思うのは,自分が何者なのかを他人の物差しだけで決めていないところです.イズミは肩書きがなくてもイズミです.オリヴィエは権力を使っても,権力に自分を売らない.マスタングは現実を知りながら理想を語る.グリードは自分の欲を隠さない.エドは失ったものを抱えながら前へ進む.

完璧な人間なんて一人もいません.むしろ,めちゃくちゃ面倒な人たちばかりです.

でも,その面倒くささ込みで人間なんですよね.

会社では,人を「優秀」「使えない」「若手」「管理職」「技術者」「慎重派」「反対派」みたいな簡単なラベルにしたくなります.その方が考えなくて済むからです.

でもラベルを貼った瞬間,その人が何を守りたいのか,何を怖がっているのか,何を欲しがっているのか,なぜその言葉を言ったのかが見えなくなることがあります.

僕は仕事をするなら,そこまで見たいです.役職より人を見る.正論だけで人を切らない.言葉ではなく,その裏にある思いを見る.

たぶん僕がハガレンから一番学んだ仕事観は,これです.

そして失敗しても,まだ立派な足がついているなら,また歩けばいい.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考資料

・荒川弘『鋼の錬金術師』スクウェア・エニックス.
・月刊少年ガンガン『鋼の錬金術師』公式作品情報.
・TVアニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』公式情報.