ワールドトリガーから仕事で学べること|三雲修・諏訪に学ぶリーダー論

ワールドトリガーから仕事で学んだこと

「『ワールドトリガー』から仕事で学べることは何か?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

ワールドトリガーには,めちゃくちゃ強いキャラクターがたくさん出てきます.迅,太刀川,小南,二宮,遊真,ヒュース.戦闘能力だけを見れば,主人公の一人である三雲修より強いキャラクターなんて山ほどいます.

というか,三雲修は普通に弱いです.

トリオン能力は低い.戦闘能力も高くない.作中でもその弱さは何度も突きつけられます.少年漫画の主人公なのに,突然覚醒して敵をぶっ飛ばしたりもしません.

それでも僕は,三雲修はリーダーとしてものすごく優秀だと思っています.

そして,ここがワールドトリガーから仕事で学べる一番面白いところです.

プレイヤーとして優秀な人と,リーダーとして優秀な人は同じではない.

現実の会社では,仕事ができる人がそのままリーダーになることがあります.技術ができる.営業成績がいい.経験が長い.だから次は管理職へ.

でも,プレイヤーとして強いことと,人を率いることは別の能力です.

ワールドトリガーは,その当たり前なのに会社では忘れられがちな事実を,戦闘能力の低い三雲修という主人公でめちゃくちゃ分かりやすく見せてくれます.

では蓋を開けてみよう.

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三雲修は弱い.でも,リーダーとしてはものすごく強い

三雲修は,玉狛第2の隊長です.

ところが,チームの中で一番強いわけではありません.遊真の方が圧倒的に戦えるし,千佳は桁違いのトリオンを持っています.後から加入するヒュースも,単純な戦闘能力なら修よりはるかに上です.

普通の少年漫画なら,主人公本人がチーム最強になっていきそうなものです.

でも,修はそうならない.

自分が弱いことをちゃんと理解したまま,その条件の中でどう勝つかを考え続けます.自分に足りないものがあるなら,別の人の力を借りる.自分一人では勝てないなら,チームとして勝てる方法を探す.

僕が修を好きなのは,ここです.

自分にない能力を,無理やり「あること」にしない.

仕事でも,これはかなり重要だと思っています.

リーダーになった瞬間,急に何でもできるようになるわけではありません.技術,資料作成,交渉,説明,調整,判断,人材育成.全部でメンバーより優れている人なんて,ほぼいません.

それなのに,「リーダーなんだから自分が一番分かっていないといけない」と思い始めると,かなり危ないです.

分からないのに口を出す.自分より詳しい人がいるのに自分で決める.人へ任せればいい仕事まで抱える.

リーダーが一番強い必要なんてないんです.

修はそれを,かなり極端な形で見せてくれます.

戦闘能力では仲間に負けている.でも,目的を決め,必要な戦力を考え,どう戦えば勝てるかを考える.そして,自分にないものを持つ人をちゃんと頼る.

僕には,こっちの方がよほどリーダーに見えます.

三雲修の強さは,自分の弱さを知ったまま目的へ進めること

修のすごいところは,「自分は弱い」と理解して終わらないところです.

弱いから無理です,ではない.

じゃあどうするかを考える.

ここがものすごく重要です.

自分に戦闘能力が足りないなら,他の方法を探す.チームに足りないものがあるなら,新しい力を借りることまで考える.目的のためなら,自分の能力だけで問題を解決することにこだわりません.

僕はこれを,人脈を使うとかコネを使うという話だとは思っていません.

外の力まで含めて,目的達成のために使えるものを全部考えるということです.

仕事をしていると,なぜか「自分でやること」に価値を置きすぎることがあります.自分で調べた.自分で資料を作った.自分で交渉した.自分で問題を解決した.

もちろん,自分でできることは大切です.

でも,仕事の目的って「自分一人で頑張ったこと」ではありません.

結果を出すことです.

自分より詳しい人がいるなら聞けばいい.別の部署にできる人がいるなら頼ればいい.自分のチームだけで解けないなら,外へ助けを求めればいい.

修はそこに対する変なプライドがかなり薄いように見えます.

僕は,その愚直さが好きです.

目的のために,なりふり構わず進む.

しかも,自分だけが前へ出ればいいわけではありません.何か問題が起きたときには,自分が矢面に立つ.メンバーに火の粉がかからないように,自分が前に出る.

僕にとっては,それこそリーダーです.

強いから前に立つんじゃない.

責任を引き受けるために前へ出る.

この違いは,かなり大きいと思っています.

現実の会社は「プレイヤーとして強い人」をリーダーにしがち

ここから,ぶっちゃけタイム開始です.

現実の会社では,リーダーを選ぶときにプレイヤー能力がかなり強く見られます.

仕事が速い.専門知識がある.実績を出した.経験が長い.周囲から「あの人は優秀だ」と言われている.

だからリーダーにする.

気持ちは分かります.実績がない人をいきなりリーダーにするより,よほど説明しやすいです.

でも,プレイヤーとして優秀だった人がリーダーになった瞬間,そのまま優秀なリーダーになるとは限りません.

自分でやった方が速いから全部やってしまう.自分と同じやり方をメンバーにも求める.自分ができたことを「普通」だと思う.自分より詳しい人に任せられない.

プレイヤー時代の強さが,逆に邪魔になることすらあります.

ワールドトリガーが面白いのは,三雲修がこの構造と真逆にいることです.

修を戦闘能力だけで評価したら,リーダー候補としてかなり下に見えるはずです.

でも実際には,玉狛第2を率いている.

これは僕にはかなり風刺的に見えます.

現実の会社でも,「一番できる人をリーダーにする」ではなく,「リーダーとして何ができる人なのか」を見ないといけないんじゃないかと思っています.

人の力を借りられるか.目的を見失わないか.自分より強い人を使えるか.失敗したときに前へ出られるか.メンバーの強みを生かせるか.

戦闘力みたいに一つの数字では測れません.

だからこそ,難しいんだと思います.

諏訪さんは「自分が活躍する」より,人の使いどころを見ている

そして,ワールドトリガーのリーダー論で僕がもう一人大好きなのが,諏訪さんです.

口は悪い.めちゃくちゃ真面目そうにも見えない.

でも,人の使い方がうますぎます.

遠征選抜試験の諏訪7番隊は,諏訪,宇井,隠岐,修,香取という臨時チームです.もともとのチームメイトではなく,しかも修と香取なんて,どう考えても扱いやすい組み合わせではありません.

それでも諏訪さんは,香取を無理に「扱いやすい人」に変えようとはしません.

香取は香取のまま使う.

ここが好きです.

能力があるなら,その能力が出るように使えばいい.性格まで自分好みに矯正しようとしない.

これは前の記事で書いたDr.STONEの適材適所ともつながっています.

人間は全員違う.だから,全員を同じ形にする必要はない.

諏訪さんは,まさにそれを現場でやっているように見えます.

しかも,修が考えた方がいい場面では修に考えさせる.自分が全部の作戦を出そうとしません.

リーダーだから全部決める,ではないんです.

誰に何をやらせるかを決める.

僕はこっちの方がマネジメントに近いと思っています.

人の使いどころがうまい.そして,人の琴線を心得ている.

香取みたいなタイプをどう扱えば動くのか.修にはどこまで任せればいいのか.どこから自分が責任を持つのか.

それを見ながら動いている.

特に僕が好きなのは,メンバーに負荷のかかる判断をするとき,最後はちゃんと自分が責任を取るところです.

面倒な判断だけ部下に投げて,「君が決めたんだよね」は最悪です.

考えることは任せてもいい.仕事も任せていい.

でも,責任まで押し付けるな.

ここは修とも共通していると思っています.

「三雲を勝たせる」という発想が,諏訪さんのマネジメントを象徴している

遠征選抜試験を読んでいて,僕が諏訪さんをめちゃくちゃ好きになった理由の一つが,修本人がいないところでも「修をどう使うか」を考えているところです.

修は戦闘能力だけで見れば,試験参加者の中でも強い側ではありません.

それでも,「じゃあ修は弱いから使えない」で終わらない.

どうすれば修の能力を使えるのか.どういう状況なら勝たせられるのか.

僕はこの発想がすごく好きです.

マネジメントで大切なのは,「優秀な人を集めること」だけではないと思っています.

今いる人がどうすれば勝てるかを考えることです.

会社では,うまくいかないとすぐ人の能力の話になることがあります.

「あの人はできない」

これ,めちゃくちゃ簡単なんです.

できないと評価した瞬間,考えなくてよくなるからです.

でも,本当にその人がダメなのか.任せている仕事が合っていないのか.説明の仕方が悪いのか.役割が違うのか.別の人と組ませたら変わるのか.

リーダー側で変えられるものもあります.

もちろん,何をやってもうまくいかないことはあります.マネジメントですべて解決できるなんて思っていません.

それでも,「こいつをどう勝たせるか」を一度考えるのと,最初から「使えない」で切るのでは,全然違います.

諏訪さんは,そこを自然にやっているように見えます.

だから僕は,諏訪さんのマネジメントが好きなんです.

僕は三雲より諏訪さん寄り.でも,三雲の愚直さは持っていたい

じゃあ,自分はどちらのタイプなのか.

たぶん諏訪さん寄りです.

口は悪いし,そこまで真面目でもないので.

ただ,三雲みたいに手段を選ばず,目的のために愚直に進む姿勢は持っていたいと思っています.

リーダーになると,やれることが増える一方で,考えることも増えます.周囲への説明,反対意見,リスク,失敗したときの影響.

賢くなるほど,「できない理由」は簡単に見つかります.

でも,目的まで諦める必要はない.

自分にできないなら,人を頼る.今のやり方で無理なら,別の方法を探す.いきなり全部できないなら,小さく進む.

これは,僕が仕事で挑戦するときに大切にしている考え方ともかなり近いです.

大きな挑戦を最初から完璧に通そうとすると,関係者も増えるし,反対する理由も増えます.だから,小さく試して,結果を作って,そこから広げる.

三雲修の「持っているものを全部使って目的へ進む」という姿勢は,僕にはかなり仕事向きに見えます.

ヒュースの「刻む」は,リーダーが努力を設計するときにも使える

そして,この話をするときにどうしても外したくないのが,28巻246話のヒュースです.

若村が自分の能力不足に直面した場面で,ヒュースは「努力しろ」と精神論だけを投げません.

「刻むんだ」

目の前の一段を,さらに自分が登れる大きさまで小さくする.

僕はこの考え方がものすごく好きです.

「もっと頑張れ」と言うのは簡単です.でも,本人からすれば「だから何をすればいいんだよ」という話です.

できないことが大きすぎるなら,できる大きさまで分解する.

これは本人の努力だけでなく,リーダー側にも必要だと思っています.

部下にいきなり大きな仕事を渡して,「成長のためだから頑張れ」で終わらせるのではなく,どこまでなら今できるのかを見る.難しければ,さらに刻む.

僕なら,ヒュースほどきつい言い方はしません.

あの言い方,会社でそのままやったら普通にきついです.

でも,考え方はめちゃくちゃ使えます.

ゴールを決める.そこまでに必要なものを分ける.さらに,今の本人が登れる一段まで小さくする.一段登ったら,次へ行く.

「努力」という曖昧な言葉を,行動できるサイズまで具体化する.

これは育成でも,プロジェクトでも,自分自身の仕事でも使える考え方だと思っています.

漫画より現実のマネジメントの方が,たぶんずっと難しい

ただし,ワールドトリガーをそのまま会社へ持ってくればいいとは思っていません.

漫画と現実には,大きな違いがあります.

ワールドトリガーの登場人物は,年齢差が比較的小さく,同じボーダーという組織に所属し,かなり明確な目的を共有しています.強くなること,ランク戦で勝つこと,遠征を目指すこと.

会社はそんなにきれいではありません.

年齢も違う.経験も違う.能力差も大きい.仕事へのモチベーションも違う.出世したい人もいれば,したくない人もいる.仕事が大好きな人もいれば,生活のために働いている人もいる.

しかも,リーダー本人より20歳上の人がいることだって普通にあります.自分の何倍もその仕事を知っている人をマネジメントすることもあります.

難易度は桁違いです.

だから,「三雲みたいにやればいい」「諏訪さんを真似すればいい」で終わらせる気はありません.

それでも,根っこの部分は使えると思っています.

自分が一番強くなくてもいい.

メンバーを自分と同じ形にしなくていい.

自分にない能力は,人に頼ればいい.

その人が勝てる場所を考える.

任せても,最後の責任はリーダーが持つ.

できないことが大きすぎるなら,登れるサイズまで刻む.

僕がワールドトリガーから仕事へ持っていきたいのは,キャラクターの表面的な振る舞いではなく,こういう部分です.

ワールドトリガーから仕事で学んだのは,「一番強い人がリーダーでなくていい」ということ

会社では,「優秀な人」という言葉がよく使われます.

でも,僕はこの言葉がかなり曖昧だと思っています.

何ができたら優秀なのか.

プレイヤーとして成果を出せることなのか.人の能力を見つけられることなのか.人へ任せられることなのか.目的を決められることなのか.問題が起きたときに責任を取れることなのか.

ワールドトリガーを読んでいると,その能力は全部別物なんだとよく分かります.

三雲修は戦闘能力では弱い.

でも,自分の弱さを知り,人の力を借り,目的へ愚直に進み,必要なら自分が矢面に立つ.

諏訪さんは,自分一人で全部をやろうとしない.人の使いどころを見て,癖のある人間まで含めてチームを動かし,最後は自分で責任を持つ.

ヒュースは,できないことを「根性が足りない」で終わらせず,できる大きさまで刻むという考え方を示す.

僕は,こういう人たちを見ていると,リーダーに必要なのは「自分が一番仕事ができること」ではないと思います.

自分より強い人を使えること.

自分より詳しい人を頼れること.

メンバーが力を出せる場所を考えられること.

そして,何かあったときには自分が前へ出ること.

プレイヤーとして優秀な人と,リーダーとして優秀な人は同じではない.

三雲修という「弱い隊長」が主人公の一人だからこそ,ワールドトリガーはそれをここまで分かりやすく見せてくれる漫画なんだと思っています.

僕は諏訪さん寄りですが,三雲みたいな愚直さは持っていたい.

一番強くなくていい.

でも,チームを勝たせられるリーダーではありたいです.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考資料

・葦原大介『ワールドトリガー』集英社.
・葦原大介『ワールドトリガー』28巻,第246話「若村 麓郎②」.
・集英社「ワールドトリガー ON THE WAY TO THE EXPEDITION -遠征選抜試験編-」.
・東映アニメーション「ワールドトリガー」公式サイト.