「『Dr.STONE』から仕事で学べることは何か?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
僕がDr.STONEを見ていて一番好きなのは,千空が科学で無双するところではありません.科学王国には,千空より科学ができない人が山ほどいます.というか,ほとんどの人は千空ほど科学ができません.でも,全員ちゃんと役に立つ.
千空は科学,大樹は体力と根気,カセキはものづくり,ゲンは人の心理,龍水は航海,コハクや司は戦闘力.全員違います.そして,違うから強い.
僕はDr.STONEから仕事で一番学べることは,これだと思っています.人を万能にする必要なんてない.その人が強い場所で使えばいい.
ところが現実の会社では,せっかく強みを持っている人に別の仕事をやらせたり,「幅広い経験」という名目で何でもやらせたりします.
全部やってたら何の専門家なんだよ.
Dr.STONEを見ていると,この違和感がものすごくはっきりします.では蓋を開けてみよう.
Dr.STONEのチームが強いのは,全員が違うから
Dr.STONEには,僕がこの漫画を象徴していると思う言葉があります.
「いっろんな奴がいる=強さなんだよ!!」
7巻で千空が語る言葉です.めちゃくちゃ好きです.
Dr.STONEの科学王国は,「優秀な人間を集めたチーム」ではないと思っています.そもそも何をもって優秀とするのかがバラバラです.
千空は科学なら圧倒的です.でも体力仕事では大樹の方が圧倒的に強い.精密なものづくりならカセキがいる.人を説得したり騙したりするならゲンがいる.海へ出れば龍水がいる.
一人の人間に全部やらせようとしません.その能力が必要になった瞬間に,一番向いている人が前へ出ます.
僕は仕事で「優秀な人」という表現を聞くたびに,少し引っかかります.
何ができたら優秀なんだよ.
技術に詳しいことなのか.説明がうまいことなのか.人をまとめることなのか.地味な作業を何時間でも続けられることなのか.誰も思いつかなかったアイデアを出せることなのか.全部違う能力です.
にもかかわらず,「あの人は優秀」「この人はいまいち」と一つの軸で人を並べると,Dr.STONEで言えば千空と大樹を同じテストで評価するようなことが起きます.
そんなもん,測る側の物差しがおかしいです.
人間は全員違う.だから強い.僕はこの考え方が,Dr.STONEのチーム作りの一番好きなところです.
大樹みたいな「分かりにくい強み」を見つけられるか
ただし,現実で難しいのはここからです.千空やカセキくらい能力が分かりやすければ,適材適所なんて簡単です.めちゃくちゃ科学に詳しい.めちゃくちゃものが作れる.誰が見ても分かります.
でも,大樹って少し違うと思うんです.もちろん体力は化け物級ですが,千空やカセキ,龍水たちと比べると,「この人にしかできない特殊技能」が最初から分かりやすいキャラクターではありません.
それでも大樹は必要です.地味な作業を延々と続けられる.大量の素材を運ぶ.とにかくへこたれない.
これ,現実の会社でもかなりあると思っています.分かりやすい特技を持っている人なんて,一部です.ほとんどの人は,一緒に仕事をしてみないと何が得意なのか分かりません.
説明を任せたら妙にうまかった.調整を頼んだら全然揉めなかった.細かい確認をやらせたら異常にミスが少なかった.ある分野の話だけ急に目が輝いた.そういうものを見ながら,少しずつ「あ,この人ここ強いな」が分かってくる.
だから僕が人を見るときは,最初から職種や経歴だけで決めつけるより,小さくいろいろやってもらう方がいいと思っています.何に興味を持つか.何なら苦にならないか.何をやりたがるか.
好きと得意は,いつか近づいていくと思っています.
ただ,これも簡単ではありません.会ったばかりの人を少し見ただけで,「あなたの強みはこれですね」なんて分かるわけがない.
そんなエスパーみたいなマネジメントはできません.
だから,小さく任せてみる.見る.また違うものを任せる.適材適所は,人を一瞬で見抜く特殊能力ではなく,試しながら探していくものだと思っています.
現実の会社では,せっかくの強みを別の仕事で潰している
ところが,大きな会社では逆のことが起きます.人が多すぎて,誰が何に向いているのか分かりにくい.そのうえ「幅広い経験を積んだ方がいい」「何でもできる人になろう」という発想が入ります.
僕自身,幅が広いことは悪いとは思いません.でも,全員を同じようなジェネラリストへ寄せていく必要があるのかは,かなり疑問です.
技術が得意な人に契約の事務作業を大量にやらせる.専門性の高い人を数年ごとに全然違う部署へ動かす.その分野を何年もやってきた人に,誰でもできる調整仕事を山ほど載せる.そういうことが普通に起こります.
僕は別の記事で,技術職が契約や事務作業まで全部抱える状態について,こう書きました.
全部やってたら何の専門家なんだよ.
まさにこれです.技術は技術のプロになればいい.営業は営業のプロになればいい.法務には法務のプロがいる.
もちろん,仕事は完全に分断できません.技術的な条件を決める交渉なら技術者が入るべきです.でも,専門家が専門外の仕事まで全部自分でやることを「幅広い経験」と呼び始めると,強みを使う時間そのものが消えていきます.
Dr.STONEなら,カセキに航海までやらせて,龍水に細かいクラフトを覚えさせて,千空に全部の力仕事までやらせるようなものです.
めちゃくちゃ効率が悪い.
でも会社だと,なぜかそれをやります.適材適所という言葉はみんな知っているのに,実際の仕事ではマッチングエラーが起き続けます.
人を育てることと,全員を同じ形にすることは違うと思っています.
管理職の仕事は,人を万能にすることではない
では,マネジメント側は何をするのか.僕は,人を万能にすることではないと思っています.
その人が強い場所を探して,そこへ置く.
ものすごく単純に言えば,それです.苦手なところを全部平均まで引き上げようとすると,本人もつらいし,時間もかかります.それより,誰かが10できるところを20にしてもらった方が,チームとしては強くなることがあります.
Dr.STONEはそこを徹底しています.面白いのは,千空自身も自分が何でもできるとは思っていないことです.物語の終盤にも,「自分より向いている人がいるなら託す」という千空らしい判断が出てきます.
知識量で圧倒している主人公なのに,全部自分でやろうとはしない.僕はここがかなり好きです.
現実の管理職でも,役職が上がるほど「自分が一番分かっていなければならない」と思うと危ないと思っています.特に技術の世界なんて,範囲が広すぎます.
自分より若い人が,一つの領域について自分の100倍詳しいことなんて普通にあります.それを「俺の方が上司だから」で上から語り始めたら終わりです.
管理職になったから突然,全部の専門家になるわけではありません.むしろ,自分にできないことをやってくれる人を見つけて,頼ることの方が重要になると思っています.
千空がすごいのは,専門家をちゃんと専門家として扱うところ
僕がDr.STONEで適材適所以上に好きなのが,専門家へのリスペクトです.千空はめちゃくちゃ頭がいい.それでも,ものづくりではカセキを頼る.航海なら龍水.交渉ならゲン.必要な技術を持つ人が現れれば,ちゃんとその人に任せます.
「自分より向いている人がいるなら,その人に託す」という発想が自然です.
僕は,技術者は他の技術者に対して全員リスペクトを持たないといけないと思っています.
人を無能だと思うのって,かなり簡単です.
自分が詳しい領域だけを見れば,相手が知らないことはいくらでもあります.でも逆側から見たら,自分だって同じです.
だいたい驕りです.
だから僕は,「分かりません」「やったことがありません」と言える人を結構高く評価します.逆に,何でも「できます」と言ってから裏で必死に調べる人もいます.もちろん,調べてできるようになること自体は悪くありません.
でも,分からないなら分からないと言えばいい.「分かりません」「できません」と素直に言われると,僕はむしろ「ちゃんとしてるな」と思います.
プライドで誤魔化さない.
自分にできないことを認めるから,本当にできる人へ頼れます.千空が強いのは,科学知識を全部持っているからだけではないと思っています.自分一人では文明を作れないと知っている.だから,人を頼れる.
Dr.STONEから仕事で学んだのは,「違うまま使え」ということ
Dr.STONEを仕事に置き換えると,ものすごく単純な話になります.人間は全員違います.だから強い.
千空みたいな人もいれば,大樹みたいな人もいる.カセキも,龍水も,ゲンも必要です.なのに現実の会社では,違う人を集めておいて,なぜか全員を同じような人材に育てようとすることがあります.
僕はそれがかなりもったいないと思っています.苦手な部分を補うことは必要です.新しい仕事に挑戦することも必要です.でも,人を育てることと,強みを消すことは違います.
その人が何を好きなのか.何が得意なのか.どこなら力を出せるのか.分からなければ,小さくいろいろ任せて探す.見つけたら,そこでは思い切って頼る.そして,自分より詳しい人がいたら,ちゃんと専門家としてリスペクトする.
僕がDr.STONEから仕事で一番学んだのは,これです.
人を万能にする必要なんてない.違うまま,強く使えばいい.
「いっろんな奴がいる=強さなんだよ!!」
科学王国が強い理由は,たぶんこれに全部入っています.
以上,ご清聴ありがとうございました.
参考資料
・稲垣理一郎・Boichi『Dr.STONE』集英社.
・TVアニメ『Dr.STONE』公式サイト.
