※この記事は映画『オデュッセイア』(2026)の重大なネタバレを含みます.
映画『オデュッセイア』の序盤から,ずっと気になっていたことがあります.
あの男たち,何してんの?
オデュッセウスがいない王宮で,知らない男たちが酒を飲み,飯を食い,テレマコスに偉そうな態度を取っている.しかもペネロペ役のアン・ハサウェイがなかなか出てこないので,最初は本当に「ただの求婚者たちなのかな?」とも思っていました.
さらに僕は,あの男たち全員が仲間だとも思っていませんでした.アンティノオスも,最初は「数いる嫌なやつの一人」くらいの認識です.
では,あの求婚者たちは何のために王宮へ集まっているのか.なぜペネロペとテレマコスは追い出せないのか.そしてアンティノオスは,本当にただの悪役なのか.
調べると,映画の序盤で起きていたことがかなり分かりやすくなりました.
映画全体の感想はこちらでまとめています.
映画『オデュッセイア』ネタバレ感想|★★★★★5.0.圧倒されて言葉が出なかった
結論|求婚者たちはペネロペと王座を狙うライバルだった
まず一番知りたかった答えから.
求婚者たちは,20年間帰ってこないオデュッセウスを事実上死んだものと考え,妻ペネロペとの結婚を狙って王宮へ集まった男たちです.映画では,その先にイタケの王座もあります.
公式サイトでもアンティノオスは「イタケ王国の王座を狙う求婚者たちのリーダー」と説明されています.また公式予告の紹介でも,オデュッセウスの王座の奪取を企む人物として紹介されています.
つまり僕が最初に思っていた通り,あいつらは全員が一枚岩の仲間というわけではありません.
むしろ,同じ女性と同じ王座を狙っている競争相手です.
原典でも求婚者たちはそれぞれペネロペとの結婚を望みながら,オデュッセウスの屋敷で飲み食いしています.テレマコスは第1歌の時点で,「自分たちの財産で宴会するのをやめて,自分の家で食え」と怒っています.
要するに,
王が20年帰ってこないので,次の王と夫の席を狙う男たちが,王宮に大集合している.
だいぶ迷惑です.
じゃあ,なんで追い出さないの?
ここが次に気になるところです.
テレマコスからしたら,自分の家で知らない男たちが飯を食いながら母親を口説いているわけです.
追い出せよ.
と思います.
でも映画では,「ゼウスの法」がここに関わっています.ノーラン自身も,本作では古代ギリシャの客人歓待のルールである「xenia」を重要なテーマとして扱ったと説明しています.
xeniaでは,客を迎えた主人は客を保護し,食事などでもてなす.一方で客側も主人へ敬意を払う義務があります.
映画版では,このルールのためにペネロペとテレマコスは求婚者たちを単純に力ずくで追い出せません.映画について古典研究者へ取材した解説でも,求婚者が「客」であるため,追放すればゼウスの怒りを招く危険があるという構造だと説明されています.
ところが求婚者側は,その客人としての立場を完全に悪用する.
飯を食う.酒を飲む.財産を食い潰す.家主へ敬意も払わない.
つまり,守られているルールを使いながら,自分たちはそのルールを破っているんですよね.
原典でもテレマコスは,求婚者たちがこのまま屋敷を食い潰すなら,いつかゼウスが報いを与えるだろうと警告しています.
ずるすぎる.
アンティノオスは何を狙っていた?
そしてアンティノオスです.
初見の僕には,特別なラスボスには見えていませんでした.
嫌なやつは他にもいるし,アンティノオスもその中の一人.しかも演じているのがロバート・パティンソンです.
『TENET テネット』ではニールだった人ですよ.
僕の中では普通にいいやつのイメージが残っています.なので今回も,「こいつ本当に敵なのか?」という感覚が最初はありました.
でも公式設定では,アンティノオスは求婚者たちのリーダーであり,王座を狙う人物です.一方でロバート・パティンソン自身は,アンティノオスについて「ペネロペを深く愛する現実主義者」「悪役ではあるけど悪人ではない」とコメントしています.
これが面白い.
つまりアンティノオスは,
「王座だけ欲しいからペネロペを利用する男」
と単純化するのも違うらしい.
王座は欲しい.ペネロペも欲しい.そして本人なりには本当に愛している.
だから僕が序盤で「もしかして普通に求婚してるのか?」と思ったのも,完全に間違っていたわけではありませんでした.
ただし,そこからテレマコスへの敵意や,シノンとの過去が見えてくると,少しずつ「こいつが中心だったのか」が分かってくる.
最初から「はい,ラスボスです」と見せないところが憎いです.
テレマコスの物語は「父を探す」だけじゃなかった
僕は序盤,テレマコスの話がこの先どう進むのかもかなり気になっていました.
父親は20年間帰ってこない.家には求婚者が大量にいる.母親は再婚を迫られている.しかもアンティノオスは王座まで狙っている.
つまりテレマコスって,単に「いなくなった父親を探している息子」ではないんですよね.
このままオデュッセウスが帰らなければ,自分の家だけでなく,自分の将来の王位まで奪われる可能性がある.
原典でもアンティノオスは,テレマコスに対して「ゼウスがお前をイタケの王にしないように」と言い,テレマコス自身も王位について言及しています.
だから求婚者たちの存在は,ペネロペの再婚問題だけではありません.
テレマコスにとっては,
父親の不在によって,自分の家と国が少しずつ他人に奪われていく話
でもあります.
そう考えると,終盤でオデュッセウスとテレマコスが一緒に戦う意味もかなり重くなります.
ゼウス,なんでこいつらには罰を与えないの?
ここでもう一個,映画を観ながら気になったことがあります.
ゼウスの法がそんなに大事なら,
ゼウス,なんでこいつらには罰を与えないん?
求婚者たち,めちゃくちゃゼウスの法を破ってるじゃないですか.
でも調べてみると,原典ではむしろ「最終的に罰される側」です.テレマコスも求婚者に対するゼウスの報復を願っていますし,最後にはオデュッセウスが帰還し,求婚者たちを殺します.
つまり,
「ゼウスが何もしない」
というより,
罰がすぐに雷として落ちてこない.
映画版では,ここがさらに面白く見えました.
求婚者たちは客人としての立場を悪用し,他人の家を侵食している.でも一方でオデュッセウス自身も,トロイの木馬を使ってゼウスの法を破った側として描かれています.
だから僕には,
「オデュッセウスがゼウスの法を破った罰として,神が求婚者を送り込んだ」
とまでは見えません.映画もそこまでは言っていません.
でも,
オデュッセウスがルールを壊した世界で,故郷でも同じルールが壊れている.
という読みはかなりしっくりきます.
戦争で一度壊れた秩序が,遠く離れたイタケでも壊れていく.
そして最後には,自分もゼウスの法を破ったオデュッセウスが,今度は同じ法を踏みにじった求婚者たちを殺す側になる.
綺麗な勧善懲悪じゃないんですよね.
ここがノーラン版の面白いところだと思います.
「そして復讐を終えたオデュッセウスが,なぜ取り戻した王座へ座らなかったのかはラスト考察でまとめています.
求婚者たちは「20年間で壊れた故郷」そのものだった
ぶっちゃけタイム開始です.
求婚者たちって,映画を観始めたときは本当に意味が分かりませんでした.
ペネロペ本人はなかなか出てこない.知らない男たちは宴会している.アンティノオスも本当に敵なのか分からない.
でも全体を整理すると,かなり大事な存在です.
オデュッセウスが20年間帰らなかった間,故郷もそのまま止まって待っていたわけではない.
王はいない.王座を狙う人間が現れる.家の財産は食い潰される.息子は追い詰められる.妻は再婚を迫られる.
つまり求婚者たちは,
「20年帰らなかったら,家はこうなるぞ」
を見せているんですよね.
怪物を倒して,海を越えて,「はい故郷に帰れました」で終わらない.
最後に待っている敵が,自分の家の中にいる.
これ,めちゃくちゃ嫌な話です.
まとめ|求婚者はただの悪役軍団ではなかった
映画『オデュッセイア』の求婚者たちは,オデュッセウスが20年間帰らない間に,ペネロペとの結婚とイタケの王座を狙って王宮へ集まった男たちです.
全員がアンティノオスの部下というわけではなく,同じ目的を持つライバル同士.その中でアンティノオスがリーダー格になっています.
彼らが王宮へ居座れる背景には,客人をもてなす「ゼウスの法」があります.しかし本人たちはその立場を悪用し,家の財産を食い潰している.
だから最終的には,ゼウスの法を破った側としてオデュッセウスの復讐を受ける.
ただし面白いのは,そのオデュッセウス自身も同じ法を破った人物だということです.
ルールを破った英雄が,ルールを破った求婚者を裁く.
僕には,そんな皮肉にも見えました.
そして初見で「アンティノオス,本当に敵なの?」と思ったのも今ならちょっと納得です.
「『TENET』では主人公の頼れる相棒だったしね.」
以上,ご清聴ありがとうございました.
