赤ちゃんはなぜ揺らすと寝る?抱っこで歩くと眠りやすい「輸送反応」とは

1. 赤ちゃんが眠ってすぐ置く場合と,少し待ってから置く場合を比較した寝かしつけのイラスト

「赤ちゃんはなぜ揺らすと寝るのか」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.


この記事を書いた人

ヌクレ博士と家族
ボス3歳:電車・お魚・虫が好き
クイーン0歳:標準よりも大きい
ママ・パパ:子供たちが大好き

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赤ちゃんの寝かしつけをしていると,これ本当に意味が分からないんですよね.大人だったら揺らされたら寝にくそうなのに,赤ちゃんはむしろ揺らした方が寝ることがあります.

うちのクイーン0歳も,抱っこして歩いていると寝ます.ところが止まると起きる.また歩くと寝るし,車や電車みたいにずっと移動している場所でもよく寝ます.

しかも電車なんて結構うるさいです.「赤ちゃんが寝てるから静かにしよう」と家では気を使っているのに,なんでこんなにうるさい電車では寝られるんだよ,という別の疑問まで出てきます.

先に結論を書くと,「揺れそのものが睡眠スイッチになっている」というより,赤ちゃんには抱っこされて運ばれると泣きや動きが減り,心拍も落ち着く「輸送反応」があることが分かっています.

その結果,すでに眠かったり泣いて疲れていたりする赤ちゃんは,抱っこして歩くことで眠りやすくなるようです.

ただし,「5分歩けばどんな赤ちゃんでも寝る」という話ではありません.2022年の研究で睡眠が促されたのは,主に泣いていた赤ちゃんでした.

今回はまず,「なぜ赤ちゃんは揺らしたり,抱っこして歩いたりすると寝るのか」を研究します.では蓋を開けてみよう.

仮説|昔の赤ちゃんは抱っこで移動するのが普通だったのでは?

僕が最初に考えたのは,太古の昔は赤ちゃんを抱っこして移動する場面が今より多かったのではないか,という仮説です.今のように安全な家に赤ちゃんを寝かせておいて,大人だけ移動するなんてことは難しかったはずです.親が移動するなら,赤ちゃんも一緒に連れていく必要があります.

しかも,昔は外敵などの危険も今より多かったはずです.そんなとき,抱っこされている赤ちゃんがずっと泣いて暴れていたら,親からしてもめちゃくちゃ運びにくい.逆に「抱っこされて運ばれているときはおとなしくなる」という赤ちゃんの方が,生き残るうえで有利だったのではないでしょうか.

つまり,赤ちゃんは単純に「揺らされると眠くなる」のではなく,「親に運ばれていると安心して落ち着く」のではないか.その結果として眠りやすくなるのでは,というのが今回の仮説です.

昔の人類が赤ちゃんを抱っこして移動していたという仮説のイラスト

調べてみたら,本当に「運ばれると落ち着く」反応があった

赤ちゃんには「輸送反応」がある

蓋を開けてみると,かなり仮説に近い研究がありました.2013年に理化学研究所などの研究チームが,生後6か月以内の赤ちゃんと母親12組を調べています.母親に赤ちゃんを抱っこしてもらい,「座って抱っこ」と「抱っこして歩く」を繰り返して比べました.

すると,母親が歩いているときは,座って抱っこしているときより赤ちゃんの泣く量が約10分の1,自発的な動きが約5分の1まで減りました.さらに,歩き始めて数秒ほどで心拍数も低下しています.つまり,「抱っこされていること」だけではなく,「抱っこされて運ばれること」で赤ちゃんが一気に落ち着いたわけです.

このように,哺乳類の子どもが親に運ばれるとおとなしくなる反応を「輸送反応」と呼びます.同じ研究ではマウスでも似た反応が確認されていて,親に運ばれると動きや鳴き声が減り,運ばれやすい姿勢をとりました.

さらにマウスでは,この輸送反応を邪魔すると,母親が子どもを運ぶのに時間がかかりました.運ばれている最中に子どもがおとなしくなることは,親が安全な場所へ移動させるうえでも合理的だったわけです.

これ,僕の仮説とかなり近くない?

抱っこして歩くと赤ちゃんが落ち着く輸送反応を説明したイラスト

※SNS画像では「運搬反応」と表記していますが,理化学研究所では「輸送反応」という表記が使われています.どちらもtransport responseを指しています.

しかも,抱っこして歩くと実際に眠る

さらに2022年には,「泣き止む」だけではなく,そのまま寝かしつけまで調べた研究が発表されています.

生後7か月以下の赤ちゃん21人と母親を対象に,抱っこして歩く,座って抱っこする,ベッドへ置く,動くベビーカーに乗せる,という条件を比較しました.激しく泣いていた赤ちゃんを母親が抱っこして5分間歩くと,全員が泣きやみ,45.5%がその5分間で眠りました.さらに18.2%は,歩くのをやめた後1分以内に眠っています.

おお.やっぱ歩くと寝るじゃん.

ただし,ここはかなり重要です.最初から泣かずに起きていた赤ちゃんは,5分間抱っこして歩いてもほとんど眠りませんでした.つまり,「5分歩けば赤ちゃんが寝る」ではありません.

泣いていて,もともと眠い可能性のある赤ちゃんを歩きながら抱っこすると,落ち着いてそのまま眠ることがある.そのくらいに受け取るのが正しそうです.

さらにこの研究では,眠り始めた直後にベッドへ置くより,眠り始めてから5〜8分ほど待ってから置いた方が起きにくい傾向も見られています.

すぐ置くのがダメってのは実感もあるよね.

ぶっちゃけタイム開始です.

これは実際の育児と一致しすぎています.クイーン0歳も,歩いていると寝るのに,寝たと思って止まると起きる.また歩けば寝るのに,座ったら起きることがあります.

寝たならそのまま寝ろよ.

こっちは家の中を何周していると思っているんでしょうか.でも研究を知ると,親から見れば同じ抱っこでも,赤ちゃん側からすると「運ばれている状態」と「止まっている状態」は結構違うのかもしれません.

考察|僕の原始時代仮説は「まあまあ正解」だった

最初の仮説は,「昔は抱っこして移動することが多かったから,運ばれているときにおとなしくなる赤ちゃんの方が生き残りやすかったのでは?」というものでした.今回調べた研究では,実際にヒトやマウスに輸送反応があり,子どもがおとなしくなることで親が運びやすくなることまで確認されています.

なので,僕の仮説は「まあまあ正解」としていい気がします.ただし,「原始時代に人間が抱っこして逃げ回っていたから,現在の赤ちゃんに輸送反応が進化した」と直接証明されたわけではありません.そこは研究結果ではなく,僕の考察です.

それでも,「赤ちゃんは揺れると眠くなる」と考えるより,「親に運ばれると落ち着く.その結果として眠りやすくなる」と考えた方が,今のところかなりしっくりきます.単なる揺れだけではなく,抱っこされている感覚や体が移動している感覚など,いくつかの刺激が組み合わさっているようです.

赤ちゃんが抱っこで運ばれると安心する可能性を考察したイラスト

そしてもう一つ気になるのが,車や電車でも寝ることです.揺れだけでなく,走行音や一定の雑音まであるのに寝る.

「静かにしてる意味とは?」

そこまで気になったので,これは別の記事で調べました.

→ 赤ちゃんはなぜうるさい場所でも寝る?電車や車で寝落ちする理由を調べた

じゃあ寝かしつけでは,とりあえず歩けばいいの?

今回の研究だけを見ると,泣いている赤ちゃんを落ち着かせる方法として「抱っこして歩く」には科学的な裏付けがあります.ただし,どんな赤ちゃんでも5分歩けば必ず寝るという話ではありません.赤ちゃんにも個人差がありますし,泣いている理由によっても当然変わります.

それでも,「座って抱っこしても全然泣き止まない」というときに,少し歩いてみるのは理にかなっているようです.もし寝たとしても,寝た瞬間に置くのではなく,少し待ってから置く方が起きにくい可能性があります.

なお,今回の「揺れ」は抱っこして歩くような穏やかな動きの話です.強く揺さぶるという意味ではありません.寝かしつけた後は,1歳未満ならあおむけで,硬く平坦な寝具に寝かせるなど,安全な睡眠環境は別に守る必要があります.

まとめ|赤ちゃんは「揺れ」より「運ばれていること」で落ち着くのかもしれない

赤ちゃんを抱っこして歩くと,泣きや動きが減り,心拍数も低下する「輸送反応」が確認されています.さらに,泣いている赤ちゃんを5分間抱っこして歩くことで,約半数が眠ったという研究もあります.

なので,赤ちゃんが揺らされると寝る理由は,「揺れが直接眠気を起こす」というより,「親に運ばれることで落ち着き,その結果として眠りやすくなる」と考える方が近そうです.昔の赤ちゃんにとって,運ばれている間におとなしくすることが生存に役立った可能性もあります.

ただし,僕の「原始時代に抱っこして移動することが多かったから」という部分まで証明されたわけではありません.今回は,仮説はまあまあ正解だった,くらいにしておきます.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考資料

理化学研究所
「抱っこして歩くと赤ちゃんがリラックスする仕組みの一端を解明」
https://www.riken.jp/press/2013/20130419_2/

理化学研究所
「赤ちゃんの泣きやみと寝かしつけの科学」
https://www.riken.jp/press/2022/20220914_1/

こども家庭庁
「赤ちゃんが安全に眠れるように ~1歳未満の赤ちゃんを育てるみなさまへ~」
https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/kenkou/sids