赤ちゃんはなぜうるさい場所でも寝る?電車や車で寝落ちする理由を調べた

なぜうるさいのにネルの?

「赤ちゃんはなぜうるさい場所でも寝る?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

赤ちゃんが寝た.よし静かにしよう.テレビを消して,会話は別の部屋でして,家事の音もなるべく立てない.我が家でも妻はかなり気を使っている.

でも,ずっと疑問だった.

うちのクイーン0歳,そんなに静かにしなくても寝るのである.

家に人が来てガヤガヤしていても寝る.換気扇がゴーッと鳴っていても寝る.外に出れば電車でも寝るし,騒がしい場所でも普通に寝る.

一方で,静かな家で寝ているときにドアをガチャッと閉めたり,冷凍庫から氷をガラガラ取ったりすると起きる.

なんだこれ.

もしかして赤ちゃんの睡眠って,「静かかうるさいか」より「音がずっと同じか,突然変わるか」の方が重要なんじゃないの?

では蓋を開けてみよう.

うるさい場所でも寝るクイーン0歳

最初は,外でよく寝るのは単純に揺れているからだと思っていた.電車も車も揺れるし,ベビーカーも動いている.抱っこ紐なら親の動きがそのまま伝わる.

実際,ベビーカーは止めると起きることが多い.深く寝てしまえば別だけど,寝入りばなでは動いている方が明らかに強い.

揺れについては別の記事でも調べたけど,赤ちゃんが運ばれているときに落ち着く反応については研究もある.だから「外で寝る=騒音が気持ちいい」と決めつけるのは早い.

ところが,それだけでは説明できないこともある.

家に人が来て会話が続いているときや,換気扇がずっと回っているときにも寝ることがあるのだ.この場合,電車ほど強い揺れがあるわけではない.

そして我が家で妙に再現性が高いのが,

「ずっと鳴っている音は平気なのに,突然の音で起きる」

という現象だった.

換気扇は平気.ガヤガヤした会話も案外平気.でもドアの音や氷のガラガラ音では起きる.

これ,本当に音量だけの問題なんだろうか.

ホワイトノイズで赤ちゃんが寝た研究がある

調べてみると,昔から赤ちゃんの睡眠とホワイトノイズを調べた研究がある.

1990年に発表された小規模なランダム化比較試験では,生後2〜7日の新生児40人を2群に分けている.ホワイトノイズを聞かせた20人では16人,つまり80%が5分以内に眠った.一方,ホワイトノイズを使わなかった20人では5人,25%だった.

かなり差がある.

もちろん40人だけの古い研究なので,「ホワイトノイズを流せば赤ちゃんは80%寝ます」と言うのは雑すぎる.赤ちゃんの月齢もかなり小さい.

それでも少なくとも,

「音がある=赤ちゃんの睡眠を邪魔する」

とは限らないことは分かる.

そういえば,ボス3歳が赤ちゃんだった頃にも,我が家では寝かしつけのときにiPadから水がボチョボチョ流れる音を毎回流していた.妻が「赤ちゃんが落ち着く音」として知っていて始めたものだった.

効果があったのか?

分からない.

毎回流していたから比較対象がない.理系ブログとして最悪の実験条件である.ただ当時の親には,科学的検証より「頼むから寝てくれ」という強い願いがあった.

今クイーン0歳を見ていると,あの水音も単なるおまじないではなく,一定した背景音を作るという意味はあったのかもしれない.

「うるさい」より「突然変わる音」の方が問題なのかもしれない

ここが今回いちばん面白かったところである.

赤ちゃんにとって重要なのは,単純な音量ではなく,背景から突然飛び出してくる音なのではないか.

非常に早く生まれた早産児26人をNICUで調べた研究では,背景音より5〜15dBA大きくなった音のピークに対して,心拍や呼吸などの生理的反応が確認されている.睡眠中に起きた音の変化によって覚醒するケースもあった.

ただし,これはNICUにいる非常に早く生まれた赤ちゃんの研究である.健康なクイーン0歳にそのまま当てはめることはできない.

それでも,

「一定の音が鳴っている状態」と
「突然ガチャッと音が入る状態」

を同じ「うるさい」で括るのは違いそうだ.

これは我が家の観察ともかなり一致する.

換気扇はずっとゴーッと鳴っている.人が何人かで話している場所も,一度その環境に入れば背景音がある程度続く.

でもドアは突然ガチャッと鳴る.氷も突然ガラガラ鳴る.

ホワイトノイズなどの連続音が使われる目的の一つも,他の物音を目立ちにくくすることにある.

静かな部屋では,小さな物音でも背景との音量差が大きくなる.一方,ある程度一定した環境音があれば,同じ小さな物音が相対的に目立ちにくくなる可能性がある.

つまり僕の最初の仮説だった,

「周りがずっとうるさいと,小さな物音が目立たなくなるのでは?」

は,少なくとも完全な妄想ではなさそうだ.

じゃあ赤ちゃんが寝たら静かにする必要はないのか

ぶっちゃけタイム開始です.

赤ちゃんが寝た瞬間からテレビを消し,会話を別室に移動し,家事まで忍者みたいにやる生活を見ていると,僕はずっと思っていた.

そこまでやる意味ある?

ただ,調べた結果は「妻よ,全部気にしなくていいぞ!」と完全勝利できる内容でもなかった.

ドアや氷みたいな突然の音で実際にクイーン0歳は起きているし,研究でも音環境の急な変化に赤ちゃんが反応すること自体は確認されている.

だから突然の大きな音を避けることには,普通に意味がありそうだ.

一方で,テレビも会話も家事もすべて消して無音を作る必要があるのかというと,そこまで強い根拠は今回見つけられなかった.

さらに,144人の健康な乳児を生後3,6,12か月で追った研究では,自宅周辺の夜間交通騒音と睡眠時間,睡眠中の活動,睡眠のばらつきには,全体として明確な関連が確認されなかった.

もちろんこれは「電車の中で赤ちゃんが寝る実験」ではない.道路,鉄道,航空機の騒音を住宅ごとに推定した研究なので,今回の疑問に直接答えるものではない.

それでも,赤ちゃんの睡眠が外部の音に対して意外と頑丈な場合があることは示唆している.

そして僕がもう一つ疑っていた,

「親が静かにしすぎるから,逆に普通の生活音でも起きる赤ちゃんになるんじゃないの?」

という仮説.

これについては,今回調べた範囲では因果関係を示す強い根拠を確認できなかった.

ここは僕の仮説止まりである.

残念.妻にドヤ顔で提出できる論文は見つからなかった.

結論.家中を無音にするより「突然の音」を気にした方がよさそう

今回調べて分かったのは,「赤ちゃんはうるさい場所の方がよく寝る」という単純な話ではなかった.

電車やベビーカーでは揺れもある.抱っこ紐なら密着感もある.睡眠に影響している要素を音だけに切り分けることはできない.

ただ,一定した音が睡眠を助ける可能性を示した研究はある.そして背景から突然飛び出す音に赤ちゃんが反応することも確認されている.

だから我が家の,

換気扇では寝る.
ガヤガヤしていても寝る.
でもドアの「ガチャッ」や氷の「ガラガラ」で起きる.

という現象は,それほど不思議ではないのかもしれない.

少なくとも僕は今後,

「赤ちゃんが寝た!全員無音!」

とするより,

「普通の生活音はそこまで恐れず,突然デカい音だけちょっと避ける」

くらいでいいんじゃないかと思っている.

ちなみにホワイトノイズや睡眠用の音を使う場合は,音量を上げれば上げるほどいいわけではない.米国小児科学会は,乳児用の睡眠音機器を使うなら,赤ちゃんからできるだけ離し,音量を低くし,使用時間も制限する方が安全だとしている.最大音量ではかなり大きな音を出す製品も確認されているので,耳元で大音量を流し続けるのはやめた方がいい.

静かすぎる必要もなさそう.でも,うるさければうるさいほどいいわけでもない.

蓋を開けてみると,赤ちゃんの睡眠は「音量」だけではなく,「どんな音がどう変化するか」を考えた方が面白そうだった.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考文献・参考資料

Spencer JA,Moran DJ,Lee A,Talbert D.White noise and sleep induction.Archives of Disease in Childhood.1990;65:135-137.

Kuhn P,Zores C,Pebayle T,et al.Infants born very preterm react to variations of the acoustic environment in their incubator from a minimum signal-to-noise ratio threshold of 5 to 10 dBA.Pediatric Research.2012;71:386-392.

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