※この記事は映画『8番出口』の結末までネタバレを含みます.
「映画『8番出口』は面白かったのか」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
ヌクレ博士評価:★★★★☆ 4.0 / 5.0
この記事を書いた人

ヌクレ博士
ヒーロ映画が大好きおじさん
ドラマの多いヒーロ物に弱い
歴代映画ランキングを是非見てね!
X:https://x.com/nucleotidefilm
先に結論から言うと,かなり面白かったです.人にも普通にすすめますし,もう一度観るのも全然ありです.誰かと一緒に観るのも楽しそうな映画でした.
ただ,終わり方はめちゃくちゃモヤモヤしました.途中までの「異変を見つけろ」という映画体験はかなり好きなのに,最後になると急に主人公の人生や父親になることなど,いろいろ意味がありそうなドラマが前に出てくる.そして僕には,それがほとんどつながりませんでした.8番出口を抜けたら,なんで電車へ戻るのか.なんで主人公は泣いているのか.少年は結局何だったのか.
映画を観ている間の僕は,主人公を「人生に迷う男」というより,ほぼ「8番出口を攻略している人」として見ていました.それでも★4.0です.ドラマが刺さらなくても,間違い探しをホラー映画にした体験そのものが面白かったからです.
では蓋を開けてみよう.

間違い探しをホラーにした時点で,もう面白い
僕は原作ゲームをプレイしたことはありません.ただ,YouTubeの実況動画はかなり見ていて,ゲームの内容は知っていました.だから映画化も普通に楽しみにしていました.
ゲームを知っている状態で観ても,映画はちゃんと面白かったです.一番良かったのは,原作の再現度です.同じ地下通路を何度も歩くだけなのに,「次は何が変わる?」「今のは異変か?」とずっと画面を見てしまう.何が起きるか読めない時間そのものが怖いんですよね.そのゲームの怖さがそのまま映画でも出てました.
原作ゲームのルールはシンプルです.異変があれば引き返す.なければ進む.間違えれば戻される.映画はこのルールを崩さず,音,間,人物の動き,画面の見せ方でちゃんとホラーにしていました.
そして,この映画は日本映画とかなり相性がいいと思います.僕は邦画を観ていると,ハリウッド大作と比べて物量の差が気になることがあります.でも『8番出口』は地下通路という閉鎖空間が舞台なので,そこを自然にごまかせる.むしろ同じ場所を繰り返すこと自体が作品の武器になっています.
予算をかけて世界を巨大にする必要がない.いつもの通路を少しだけ変えれば怖くなる.これ,かなり賢いと思いました.
赤ちゃんの泣き声怖い.ネズミCGは終わってる
一番怖かったのは,やっぱりおじさんです.特に笑顔のおじさん.実況動画でゲーム版のおじさんを何度も見ていたので,普段の姿については「再現度高いなあ」くらいだったのですが,笑顔になって背後にピッタリの異変は普通に怖かったです.
あの無表情で歩いてくる存在が,ほんの少し変わるだけで怖い.『8番出口』のホラーって,こういう「いつもの風景がちょっとだけ変」という方向が一番強いと思います.コインロッカーから赤ちゃんの泣き声がする異変も怖かったです.何がいるのか見えないからこそ,嫌な想像が勝手に膨らむ.
逆に,僕には赤ちゃんみたいな鳴き声のネズミの化け物に見えたあれ.
あれはマジで終わってる.
CGがちゃちく見えて,一気に怖くなくなりました.あそこまで姿を見せるくらいなら,鳴き声と気配だけでよかったです.せっかく「見えないから怖い」が成立していたのに,見せた瞬間に安っぽくなる.ホラーで怪物を見せる難しさを,悪い意味で感じました.
ただ,これはかなりピンポイントな不満です.ホラー演出全体は普通に良かったです.笑顔のおじさんも,ロッカーの赤ちゃんも,次に何が来るか分からない感じも,怖かった.
主人公には感情移入できなかった.最後まで「攻略してる人」だった
問題はドラマです.映画では,主人公である「迷う男」に現実世界での悩みがあり,地下通路の中にも少年や歩く男のドラマが追加されています.ゲームにはほとんど物語がないので,映画ではそこにかなり大きな物語を乗せています.
歩く男側の背景が描かれるところも,いわば「おじさんの誕生秘話」みたいなものとして見ていました.悪くはないです.ただ,そこが映画の決定的な魅力だったかと言われると,僕にはそこまでではありませんでした.
主人公についても同じです.「この人はいま何を感じているんだろう」と追っていたというより,「お,異変あった」「そっちは戻れ」みたいな気持ちで見ていました.僕にとって主人公は,最後までかなり「8番出口を攻略している人」だったんです.
だから終盤でドラマとして着地しようとされると,「え,そういう映画だったの?」となる.8番出口を抜けたあと電車へ戻る意味も,主人公が泣く理由も,少年が何を意味していたのかも,映画を観ているだけでは僕にはかなり分かりにくかったです.少年の勘が妙に良いことや,おじさんに突き飛ばされる場面まで,意味がありそうなのに何を受け取ればいいのか分からない.
考察する余地というより,ドラマの接着剤が足りない感じでした.

ラストの意味を調べたら,むしろ「そのドラマいらなくない?」となった
鑑賞後に調べると,川村元気監督が何をやろうとしていたのかはかなり見えてきます.監督は原作ゲームの「前に進むか,引き返すか」という二択を,主人公が抱える人生の大きな二択とつなげ,細かな選択を繰り返した先で人生の選択に結論が出る物語として構成したと説明しています.
さらに監督は,映画では登場人物の背景説明やセリフをかなり削ったことも明かしています.小説版では,各異変が迷う男の内面にある罪のメタファーとして細かく明かされ,映画にはセリフとしてほとんど反映していない裏設定まであるそうです.
そういうことなのかなーとは思います.
ハマる人にはハマるのかしら.でも僕の感想は,「分かった!だから泣いたのか!」ではありませんでした.むしろ,そこまで説明を削るなら,そんなドラマ入れなくてよくない?と思いました.
ぶっちゃけタイム開始です.
僕は考察する映画が嫌いなわけではありません.むしろ好きです.『インセプション』のラストでコマが倒れるのか倒れないのかとか,『メメント』みたいに観終わってから頭の中で組み直す映画も大好きで,クリストファー・ノーラン映画ランキングでも散々そういう映画を上位にしています.
でも『8番出口』で僕が引っかかったのは,「答えを明言しないこと」ではなく,主人公のドラマそのものを感じるための材料まで薄くしていたことです.考察した結果,「なるほど,そういうドラマだったのね」とは思える.でも,映画を観ている最中にそこへ感情がつながっていなかったので,後から意味を聞いてもモヤモヤは消えませんでした.
僕が日本映画でたまに「またこれか」と思うやつです.意味ありげな場面を置いて,最後は説明しすぎず,あとは観客に考えてもらう.好きじゃないんだよなあ.エヴァとかシン・ゴジラとかハマれなかったんだよ.説明不足は楽しくないよ.
そのくらいなら30分くらい縮めて,ただあの地獄から抜け出すだけのホラーマックス映画でもよかったです.8番出口をクリアしたと思ったら,外には次の地獄が待っている.そのくらい振り切っても,僕はかなり好きだったと思います.
それでも★4.0.映画を観ていた体験はちゃんと面白かった
ここまでラストとドラマに文句を言いましたが,評価は★★★★☆ 4.0 / 5.0のままです.後から意味を調べて,「ドラマ部分は気にしない方が面白かったな」と思っただけで,映画を観ていた体験までつまらなくなったわけではありません.
ここは,ラストのオチそのものが嫌いで評価まで落ちた『ブゴニア』とは違います.『8番出口』は,異変を探す時間,笑顔のおじさん,コインロッカーの赤ちゃん,何が起きるか読めないホラー演出が普通に強かった.だから★4.0です.
人にももちろんすすめます.僕自身はゲーム未プレイでも実況でかなり内容を知っている状態から楽しめましたし,もう一度観るのも全然ありです.誰かと一緒に異変を探しながら観るのも楽しそうです.
そして一番惜しいのは,ドラマまで刺さっていたら★4.5まで上がっていたと思うことです.僕の中では,傑作まで行けた映画でした.
間違い探しをホラー映画にする.この映画体験はめちゃくちゃ面白かった.だからこそ,最後のドラマだけはもう少し分かるようにしてほしかったです.
以上,ご清聴ありがとうございました.
