※この記事は『マー ―サイコパスの狂気の地下室―』の結末までのネタバレを含みます.殺人,拷問,性的ないじめを含む描写にも触れます.
「『マー ―サイコパスの狂気の地下室―』は面白かったのか」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
結論から言います.
ヌクレ博士評価:★★★☆☆ 3.0 / 5.0
まあ面白かった.でも,もう一回見るかと言われたら見ないかな.
一番印象に残ったのは,マーの高校時代の過去です.好きだった男に好意を利用され,性的な行為まで見世物にされて同級生から笑われる.あれは普通にエグいし,マーに同情する部分もありました.
ただ,映画全体はかなりストレートです.タイトルと表紙の時点で「この人絶対ヤバいやつじゃん」は分かるし,マーに酷い過去があることもうっすら読める.終盤は猟奇的になるけど,グロ好き目線では中級以下のグロくらいです.
つまらなくはない.でも,心にグサッと来る決定打もない.
それで★3.0です.
では蓋を開けてみよう.
タイトルでヤバいのは分かる.それでも「うっすら嫌」な空気は良かった
物語は,高校生のマギーたちが酒を買ってくれる大人を探し,スー・アンと出会うところから始まります.スー・アンは自宅の地下室を高校生たちのたまり場として開放し,みんなから「マー」と呼ばれるようになります.
最初だけ見れば,ちょっと距離感のおかしいけど面倒見のいいおばさんです.でも若者たちへの執着が少しずつ強くなり,「なんかこの人嫌だな」が積み上がっていく.この薄い気味悪さは結構好きでした.
とはいえ,メタ的には最初から分かります.
タイトルが『サイコパスの狂気の地下室』ですからね.
表紙も含めて,「マーが実は普通のいい人でした」はさすがにない.だから僕は,マーの正体に驚く映画というより,いつ完全に壊れるのかを見る映画として見ていました.
急に大きな音や映像でビクッとさせる怖さもありますが,僕はNetflixで家で見ていたので,そこはそこまで効きませんでした.それよりも,人との距離感がおかしいとか,執着が強いとか,そういう人間の嫌さの方が怖かったです.
一番印象に残ったのは,マーが高校時代に受けた屈辱
本作で一番良かったのは,マーの過去が明かされるところです.
高校時代のマーはベンに恋をしていました.ところがベンはその好意を利用し,マーに「相手はベンだ」と思わせたまま別の男子生徒へ性的な行為をさせ,しかも同級生たちにその様子を見せて笑いものにします.
いや,これはひどい.
マーに同情するかと言われたら,もちろんします.特にベンは一番ひどい.大人になったマーがベンへ復讐しているときは,僕は普通に「もっとやれ」と思っていました.犬の血を輸血して失血死させる復讐ですら,生ぬるく感じたくらいです.
調べてみると,この過去は最初の脚本にはなかったそうです.監督のテイト・テイラーは,ただの「狂った女」ではなく,観客が同情できる人物にするためにマーの過去を追加したと説明しています.
ここは完全に成功していると思います.映画全体では強烈に残る場面が少なかったのに,マーが受けた屈辱だけはかなり残りました.
メルセデスを轢いた瞬間から,完全にスイッチが入る
それまでのマーは,かなり気持ち悪いけど,まだ「危ない人」で止まっています.ところがベンの恋人メルセデスを車で轢き殺したところから,一気にスイッチが入る.
ここからは明確に猟奇的です.ベンを拘束して犬の血を輸血する,高校生の腹へアイロンを押し当てる,口を縫う.終盤はグロ好きなら多少楽しめると思います.
ただし,僕の感覚では「グロ映画」として勧めるほどではありません.
中級以下のグロです.
そして,復讐相手についてはかなり温度差がありました.ベンたち親世代には「もっとやれ」と思う一方で,その恨みを子ども世代にまで向けるのは違うだろと.親がクソだったからといって,子どもまで同じ目に遭わせる理由にはならない.
ここが,マーに同情はするけど全面的には乗れないところです.
「サイコパスの狂気の地下室」って副題,ちょっと違くない?
ぶっちゃけタイム開始です.
この映画を見て一番引っかかったのが,日本語タイトルの「サイコパス」です.原題はシンプルに『Ma』.日本版で『マー ―サイコパスの狂気の地下室―』という副題が付いています.
でも僕には,マーは「サイコパス」というより「猟奇的な復讐者」に見えました.
過去に何をされたのかがはっきりしていて,誰を恨んでいるのかも分かる.ベンへの執着もある.少なくとも僕が見た印象では,「猟奇的なことをする人だからサイコパス」という括り方は雑に感じます.
実際,日本向けの公式紹介でも本作は「復讐ホラー」として宣伝されていました.そっちの方がしっくりきます.
一方で,娘ジーニーを病人扱いし,歩けるのに車椅子を使わせ,薬まで飲ませている部分は普通に不気味です.ただ,なぜマーが娘にそこまでするのかは映画を見てもよく分かりませんでした.ここは深読みして理由を作るより,「よく分からなかった」でいいと思っています.
面白いけど★3.0|ストレートすぎて心にグサッと来ない
終盤では,マーがマギーたちを薬で動けなくして拷問を始めます.最後は娘のジーニーが反抗したことで火事になり,マギーに刺されたマーは逃げず,すでに死んでいるベンの横へ行って燃える家に残ります.
このラスト自体は嫌いではありません.でも,特別印象に残ったわけでもないです.
本作の弱さは,全体的にストレートすぎるところだと思いました.マーに酷い過去がありそうなのも早い段階から分かるし,そのマーが最後に暴れることもタイトルと表紙でほぼ分かっている.大きな驚きはほとんどありません.
かといって,復讐映画としてめちゃくちゃ爽快かというと,そこまででもない.グロも僕には微グロ.気味悪さはある.面白くもある.でも,心にグサッと来るシーンがないんですよね.
一番残ったのは,結局マーの過去でした.
ヌクレ博士評価:★★★☆☆ 3.0 / 5.0
まあ面白かった.一回見る分には普通に楽しめました.でも,もう一回見るかと言われたら,もう見ないかな.
グロ目的ならもっと強い映画があるし,復讐の爽快感を求めてもそこまで振り切れていない.人間の嫌な感じがじわじわ積み上がり,最後に猟奇的な復讐へ切り替わる流れを楽しむ映画でした.
以上,ご清聴ありがとうございました.
