「3歳って,なんで一人で遊びながらずっとしゃべってるの?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
うちのボス3歳は,一人で遊んでいるときもかなりしゃべります.特に何かを作っているときは,「まずはここに転がします」「まずはここにこうします」みたいに,自分の作業をずーっと実況しています.
最初はピタゴラスイッチが好きなので,テレビの説明口調を真似しているだけだと思っていました.実際,大人やテレビの言い方はよく真似します.親の口癖の「ちょっと」も普通に使っています.
でも,よく見ていると真似だけでは説明しにくい場面もあります.うまくいかないと「うーんうーん」「えー,できないかもねー」と言いながら考えて,それでも無理だと最後は泣く.
考えている途中まで全部口から漏れてるんですけど.
かわいい.でも遊んでいる間ずっとなので,「こんなに独り言が多くて大丈夫なのか?」と少し心配にもなりました.
では蓋を開けてみよう.
幼児が自分に向かってしゃべる「private speech」というものがある
調べてみると,心理学・発達研究には「private speech」という言葉があります.日本語では私的発話や自己向け発話などと訳され,自分自身に向けて声に出す言葉を指します.
つまり,一人で「まずこれを置いて……次はこっち」としゃべること自体は,幼児研究でかなり昔から観察されてきた現象です.
3歳児14人と4歳児14人を保育室で自然観察し,合計2752回の観察を行った研究では,どちらの年齢でもprivate speechは集団活動より自分で選んだ活動中に出やすく,先生がいるときより一人のときに出やすいことが報告されています.
これ,かなりボス3歳っぽい.
一人で遊び始めると,誰に説明するでもなく実況が始まる.僕らが頼んだわけでもないのに,勝手に番組が始まります.
「まずはここにこうします」は,本当に考えるための言葉かもしれない
さらに面白かったのが,private speechの内容です.
2026年の『Journal of Child Language』に掲載された研究では,3〜5歳の子ども70人がDuploの組み立て課題に取り組み,66人が意味を読み取れるprivate speechを使っていました.研究ではその内容を,これから何をするか考える「forethought」,作業中の「performance」,できた・できないなどを振り返る「self-reflective」に分けています.
別の3〜4歳児の研究でも,Duploの組み立てやカード分類の課題を難しくすると,子どもの発話全体が増え,これからの行動を考える発話や自分の出来を振り返る発話が増えました.
ボス3歳の,「まずはここにこうします」「うーんうーん」「えー,できないかもねー」を並べると,めちゃくちゃそれっぽい.
もちろん,研究者がボス3歳を観察して「これは計画発話です」と判定したわけではありません.でも少なくとも,幼児が課題中に声を出しながら計画したり,自分の状態を確認したりすること自体は研究で確認されています.
なので最初の「テレビを真似してるだけでは?」という僕の仮説は,一部は当たっていても全部ではなさそうです.説明口調そのものはピタゴラスイッチや大人から覚えたのかもしれない.でも今は,その言葉を使って自分の行動まで整理している可能性がある.
真似して覚えたしゃべり方が,いつの間にか思考ツールになっているとしたら,かなり面白いです.
話しかけても無視するのは,独り言の世界に入っているから?
独り言が多いともう一つ気になるのが,「こっちの声,聞こえてる?」問題です.
ボス3歳の場合,おやつやお出かけの話をすると遊ぶ手を止めて普通に聞きます.歯磨きの話をすると,無視するか「しないよー」と怒ります.
聞こえてるじゃん.
一方で「何作ってるの?」みたいに本人が答えにくそうな質問をすると,無視したり「うーんうーん」と悩んだりします.僕から見ると,周りの声が完全に届かなくなっているというより,分かる話や興味のある話には反応し,答えにくいものはそのまま流している感じです.
ただし,これはあくまで我が家での観察です.「話しかければ反応するから発達上問題ない」と判断できる材料ではありません.家庭で見える一場面を,診断の代わりにはできません.
頭の中が漏れているように見えたけど,本当に少し漏らしているのかもしれない
ぶっちゃけタイム開始です.
子どもの独り言って,外から見るとめちゃくちゃ面白いです.「まずはここにこうします」「うーん……」「できないかもねー」.そして最後は泣く.
脳内会議を全部スピーカーで流しているみたいです.
でも研究を読むと,これがただの雑音ではなく,これから何をするか決めたり,作業を進めたり,うまくいっているか確認したりするための言葉になっている可能性があります.
大人は多くのことを頭の中だけで考えます.3歳児は,まだその一部を声に出しながら処理しているのかもしれません.実際,private speechは就学前の時期に変化し,少しずつ外から聞こえにくい形へ内在化していくことが研究されています.
そう考えると,今聞こえている独り言は,ずっと続くものではないのかもしれません.いつか頭の中だけで考えるようになったら,「まずはここにこうします」も聞こえなくなる.
それはそれで少し寂しい.
今は「何をしゃべっているか」を楽しんでおこうと思う
今回調べてみて,ボス3歳の独り言を「テレビの真似」だけで片づけるのはもったいないと思いました.
説明口調は確かに真似から始まったのかもしれません.でも遊びの途中で「次はこうする」と言い,難しくなると「できないかも」と言う.研究で報告されているprivate speechの計画・作業・振り返りと重なる部分があります.
もちろん,我が家の独り言が全部「思考を整理するため」と証明されたわけではありません.単純にしゃべるのが楽しい瞬間も,テレビの真似をしているだけの瞬間もあるでしょう.
でも僕には,頭の中が全部漏れているように見えていたものが,実は本当に,考えている途中を少しだけ聞かせてもらっているのかもしれないと思えるようになりました.
独り言そのものを止める理由は今のところありません.かわいいし,何より本人が楽しそうです.むしろ「今,何を考えてるんだ?」と観察しておこうと思います.
ボス3歳は言葉を会話にも使います.答えを知っているはずの「パパなんの虫が好き?」を何度も聞き,そこから「あとは?」「え,そうなの?」と話を続けます.同じ質問の記事では,こうした質問が会話の入り口になっている可能性も考えました.
言葉の音そのものを操作する遊びでは,しりとりもかなり面白いです.最初は「ドア→コアラ」だったのに,今ではルールを理解して長く続けられるようになりました.
以上,ご清聴ありがとうございました.
参考文献・参考資料
・Winsler A, Carlton MP, Barry MJ. “Age-related changes in preschool children’s systematic use of private speech in a natural setting.” Journal of Child Language. 2000;27(3):665-687.
・Winsler A, De León JR, Wallace BA, Carlton MP, Willson-Quayle M. “Private speech in preschool children: developmental stability and change, across-task consistency, and relations with classroom behaviour.” Journal of Child Language. 2003;30(3):583-608.
・Mulvihill A, Matthews N, Dux PE, Carroll A. “Task difficulty and private speech in typically developing and at-risk preschool children.” Journal of Child Language. 2023;50(2):464-491.
・Wall K, Mulvihill A, Matthews N, Dux PE, Carroll A. “Maternal parenting style and self-regulatory private speech content use in preschool children.” Journal of Child Language. 2026;53:218-233.
・厚生労働省「自閉スペクトラム症に関する資料」.
