『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』局長の正体は?ピーターが嘘に気づいた理由

『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』局長の正体は?

※この記事は『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』終盤の重大なネタバレを含みます.

ダメージ・コントロール局長の正体やサラに行っていた実験まで触れるので,未鑑賞の人は映画を観てから戻ってきてください.

「『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』で,ダメージ・コントロール局長の正体にピーターが気づいた理由」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

結論から言うと,局長の名前はウィリアム・“ビル”・メッツガー.原作コミックにも登場する反ミュータント側の人物で,映画ではサラを誘拐して人体実験を行い,ジーンまで実験材料にしようとしていた本当の黒幕でした.

ピーターが嘘に気づいた決め手は,ジーンに乗っ取られた人間にはその間の記憶が残らないことです.MJが「乗っ取られていた間を何も覚えていない」と話したことで,メッツガーがサラについて説明した内容と矛盾し,ピーターは騙されていたと気づきました.

ただ,僕は正体が明かされても「お前だったのか!」とはなりませんでした.ダメージ・コントロールと聞いた時点で怪しかったし,冒頭から何かを隠しているような演出もあったので,「はいはい,やっぱり敵側ね」という感じです.

しかも,やっていたことは想像よりはるかに悪いのに,嘘も実験の管理も雑すぎる.結果として,恐ろしい黒幕というより,大事故を起こした小物に見えてしまいました.

では蓋を開けてみよう.

局長の正体はウィリアム・メッツガー

ダメージ・コントロール局長として登場する男の名前は,ウィリアム・“ビル”・メッツガーです.演じているのはトラメル・ティルマン.映画の前半では,市民を守り,正体不明の脅威へ対処するためにピーターへ協力を求める政府機関の責任者として現れます.

しかし実際には,メッツガーとダメージ・コントロールこそが事件の原因でした.彼らはテレパシー能力を持つサラを連れ去り,その能力を兵器として利用するために実験を続け,最終的に死なせている.さらに,サラを探していたジーンをピーターに捕まえさせ,同じ実験を続けようとします.

つまり,ジーンは最初から理由もなく暴れていたわけではありません.やり方は完全にアウトですが,彼女はサラを探し,ダメージ・コントロールへたどり着こうとしていた.一方のメッツガーは,自分たちが作った被害者を「正体不明の危険人物」としてピーターに処理させようとしていたわけです.

原作コミックのメッツガーは,1999年の『X-Men: Children of the Atom』に登場した反ミュータント活動家です.反ミュータント組織を率い,ミュータントを危険な存在として扱う人物なので,映画でダメージ・コントロールを率いてサラとジーンを実験対象にしたのも,原作の役割をMCU向けに置き換えたものだと考えられます.

ただし,僕は原作を知らないので,名前を聞いてもまったくピンときませんでした.「ビル・メッツガーだ!」と言われても,誰?で終わる.原作ファンには今後のX-MENにつながる不穏な名前でも,映画だけ観ている側にとって重要なのは,名前ではなくこいつが何をしたのかです.

ピーターが局長の嘘に気づいた理由

ピーターがメッツガーを疑う決め手になったのは,ジーンが口にした「サラ」という名前でした.ピーターがその名前について尋ねると,メッツガーはジーンに精神を乗っ取られたとき,自分が最近失ったサラという人物を考えていたため,ジーンがその名前を読み取ったのだと説明します.

その場では,一応つじつまが合っています.ジーンは他人の精神へ入り込める.ならば,メッツガーの記憶からサラという名前を拾ったという説明も成立する.ピーターもこの時点では,メッツガーを完全には疑いませんでした.

ところが,あとでMJに確認すると,MJはジーンに乗っ取られていた間のことを何も覚えていませんでした.ここでピーターは,メッツガーの話がおかしいと気づきます.乗っ取られている間の記憶が残らないなら,メッツガーはその最中に自分が何を考え,ジーンがどこからサラという名前を拾ったのか説明できないはずだからです.

つまり,メッツガーは最初からサラを知っていた.しかも,ジーンに読み取られた他人の名前としてごまかさなければならない理由があった.そこからピーターが調べると,ダメージ・コントロールがサラに関する情報を消し,研究と称して人体実験を行っていたことが分かってきます.

https://www.d-life.nucleotide-blog.com/movie/spider-man-brand-new-day-vmax-sarah-ceiling/↗

最初からダメージ・コントロールが怪しすぎる

この流れ自体は分かりやすいです.一度は納得した説明が,別の人物の証言によって崩れる.ピーターが小さな矛盾から真相へ近づくので,謎解きとしてはちゃんと成立しています.

ただ,僕はメッツガーが敵だと最初から思っていました.理由は単純で,ダメージ・コントロールだからです.MCUでこの組織が出てきて,にこやかに「あなたと協力したい」と言われても,もう素直に信用できない.

冒頭のメッツガーにも,何かを隠しているような怪しげな演出があったと思います.表面上は協力的なのに,ピーターへ見せる情報を選び,ジーンを危険人物として処理する方向へ誘導している.その時点で,「こいつが全部ではなくても,どうせ何かやってるだろうな」と感じました.

そのため,黒幕だと分かった瞬間の感想は,「やっぱりね」です.原作を知っていればウィリアム・メッツガーという名前自体に意味があったのかもしれませんが,僕にはない.単に,最初から怪しかったダメージ・コントロールの偉い人が,予想どおり敵だっただけでした.

驚いたのは正体ではなく,悪事の深さです.怪しい研究をしている程度ではなく,人をさらい,能力の限界まで実験し,死なせ,その事実を消し,さらに妹まで同じ実験へ使おうとしていた.想像よりはるかに胸糞が悪い.

ダメージ・コントロールは過去のMCUで何をしてきたのか

そもそも,ダメージ・コントロールは最初から悪の研究機関として登場した組織ではありません.『スパイダーマン:ホームカミング』では,ニューヨーク決戦後に残された宇宙由来の瓦礫や危険な技術を回収し,街を復旧する政府機関として登場しました.名前どおり,ヒーローとヴィランが暴れたあとのダメージを片づける組織だったわけです.

ただし,この時点ですでにろくでもない火種を作っています.ダメージ・コントロールが現場を一括管理したことで,エイドリアン・トゥームスたち民間業者は仕事を突然奪われました.そのトゥームスが回収したチタウリの技術を使って武器を作り,ヴァルチャーになるので,ダメージ・コントロールのやり方が最初のヴィラン誕生へ間接的につながっています.

もちろん,危険な宇宙技術を政府が管理すること自体はおかしくありません.ただ,民間業者を一方的に追い出し,危険物も権限も自分たちへ集中させた結果,管理から漏れた技術が裏社会へ流れました.組織の目的は理解できるけれど,進め方が雑で,その後始末をスパイダーマンがやることになった最初の例です.

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では,役割がさらに変わります.ミステリオに殺人犯として告発されたピーターを拘束し,MJ,ネッド,メイおばさんまで別々に取り調べ,スターク・インダストリーズの技術についても捜査しました.街の瓦礫を片づける組織だったはずが,いつの間にか能力者とその周辺人物を監視し,拘束し,尋問する捜査機関になっています.

ピーターが疑われた以上,捜査そのものは必要だったと思います.しかし,当時のピーターはまだ高校生です.友人や保護者までまとめて連行し,別々の部屋で揺さぶりをかける姿を見ると,「市民を守る組織」というより,「危険かもしれない能力者を最初から管理対象として見る組織」に近づいていました.

そして『ミズ・マーベル』では,その傾向がさらに露骨になります.ダメージ・コントロールは正体不明の能力者だったカマラを追跡し,カムランにドローンを向け,最後には高校へ武装部隊を突入させました.上司のクリアリーは撤退を命じているので,すべてが組織として正式に承認された行動ではありませんが,現場判断だけで未成年の能力者へ武器を向けられる体制そのものが普通に怖い.

『シー・ハルク:ザ・アトーニー』では,ダメージ・コントロールが能力者を収容する超厳重刑務所まで管理しています.さらに『ワンダーマン』では,トレヴァー・スラッタリーを使って能力者の疑いがあるサイモン・ウィリアムズを内偵させ,その力を監視し続けました.瓦礫の撤去から始まった組織が,技術の押収,能力者の捜査,拘束,監視,収容まで担当するようになったわけです.

掃除屋だったはずが,いつの間にか能力者専門の警察と情報機関と刑務所を全部乗せした組織になっています.しかも過去作では,ダメージ・コントロールが強引に動くたびに新しい問題が起き,結局ヒーロー側が後始末をしてきました.

だから『ブランド・ニュー・デイ』でメッツガーが「ジーンは危険です.協力してください」とピーターへ近づいてきても,僕は最初から信用できませんでした.過去のダメージ・コントロールを見てきた側からすると,危険人物を捕まえたいと言われた瞬間に,「その危険人物を作ったの,またお前らじゃないだろうな」と疑ってしまいます.

そして蓋を開けてみると,本当に自分たちでサラを連れ去り,実験で死なせ,ジーンまで敵に回していました.ダメージをコントロールするどころか,MCUを通してダメージの発生源になり続けています.

ぶっちゃけ,悪事の規模に対してリスク管理が甘すぎる

ぶっちゃけタイム開始です.メッツガー,やっていることの割に詰めが甘すぎます.

まず,ピーターについた嘘が雑です.ジーンの能力と記憶の残り方を少し確認されたら矛盾する説明を,よりによって頭のいいピーターへその場しのぎで話している.サラを知らないと言い切るか,ダメージ・コントロール側で統一した説明を準備するか,もう少しバレにくい嘘はいくらでもあったはずです.

次に,ジーンの能力が覚醒する危険をほとんど考えていません.サラは能力を限界まで使わせる実験の中で死んでいる.その妹であるジーンを同じように追い込み,サラが死んだ場所へ連れていけば,精神的な衝撃と能力が一気に爆発する可能性くらい考えるでしょう.

しかも相手は,人の精神へ入り込み,複数の人間を経由しながら移動できる能力者です.メッツガーたちはジーンが一度に移動できる距離まで把握し,そのギリギリ外側から実験を監視していました.能力を知らずに近づいたのではなく,測定した限界値をそのまま絶対に越えない境界線だと信じていたわけです.いや,安全率ゼロかよ.

能力の範囲が少し伸びる,強い感情で出力が上がる,個人差や測定誤差がある,別の人間を経由して届く.未知の能力を扱っているなら,これくらい最初に考えるでしょう.ましてサラは実験中に能力が増幅しているのだから,「限界値は変化するかもしれない」という証拠まで自分たちで持っています.

普通にリスクを下げるなら,監視と指示を施設外の遠隔系へ切り出し,ジーンの移動経路になり得る人間を周囲へ置かず,能力の想定範囲が伸びても届かない距離を確保するはずです.通信や制御も現場から分離し,能力抑制装置が一つ破られても次が残るように多重化する.「現在確認できた最大距離の少し外」は,安全圏ではなく,次に突破される場所です.

演出上,メッツガーが近くにいて説明し,ジーンがその場で覚醒しなければ話が進まないのは分かります.でも,能力の範囲を理解していながらギリギリに立ち,その範囲が変化する可能性だけ無視するのは,さすがに都合がよすぎる.現場の人数を減らす,サラの情報が目に入らない別施設を使うなど,他にもリスクを下げる方法はいくらでもあります.

人体実験を肯定する気は一切ありませんが,悪の研究機関をやるなら,せめて危険源くらい洗い出してくれ.ダメージをコントロールする組織が,自分たちの実験で一番大きなダメージを発生させてどうする.名前からして仕事ができていません.

メッツガーに魅力を感じなかった理由

僕がメッツガーに魅力を感じなかった理由は,単に戦闘能力がないからではありません.普通の人間でも,思想が恐ろしい,先を読む力がある,主人公を完全に出し抜くなど,魅力的な悪役はいくらでもいます.

メッツガーには,反ミュータントという今後につながりそうな思想があります.政府機関と技術を握り,能力者を兵器や管理対象として扱う立場も,本来ならかなり怖い.力で殴るヴィランではなく,制度と権限で人を壊す敵になれる設定です.

でも今回の映画で強く見えたのは,思想よりも雑さでした.ピーターへの嘘は簡単に崩れ,ジーンの能力を甘く見て覚醒させ,最後には自分たちの施設を壊される.やっていることは極悪なのに,計画を支える知性や怖さが見えないので,小物が権力を持って大事故を起こしたように見えます.

原作を知らない僕にとって,「実はウィリアム・メッツガーでした」という名前の開示にも驚きはありませんでした.敵側なのね,はいはい.むしろ,これだけのことをしておいて,その程度の準備しかしていなかったのかという呆れの方が強かったです.

局長の正体より,局長の雑さが気になった

整理すると,局長の正体は反ミュータント側の原作キャラクター,ウィリアム・“ビル”・メッツガーです.映画ではダメージ・コントロールを率い,サラを実験で死なせ,ジーンまで利用しようとした本当の黒幕でした.

ピーターが嘘を見抜いたきっかけは,乗っ取られていた間の記憶です.MJには記憶がなかったのに,メッツガーは自分がその間にサラを考えていたと説明した.この矛盾から,ピーターはメッツガーが最初からサラを知っていたと気づきます.

この謎解きは理解できます.ただ,メッツガーが敵であること自体は,ダメージ・コントロールという時点と冒頭の怪しい演出でほぼ予想どおりでした.原作を知らないので名前の衝撃もなく,「やっぱり敵だったか」で終わります.

そして,正体が分かったあとに残ったのは,恐ろしさよりリスク管理の甘さでした.簡単に崩れる嘘をつき,サラを死なせた実験をジーンにも繰り返し,能力の限界値ギリギリを安全圏だと思い込み,覚醒の可能性も逃走経路もまともに潰していない.悪事は重いのに,悪役としては軽く見えてしまう.

今後のX-MENにつながる人物として残すなら,次はもう少し大物らしいところを見せてほしいです.少なくとも,ピーターに協力を求める前に嘘の設定を見直し,ジーンを実験する前にリスクアセスメントをやってください.

以上,ご清聴ありがとうございました.