※この記事は『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の重大なネタバレを含みます.終盤の展開まで全部書きます.未鑑賞の人は観てから戻ってきてください.
「『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』は面白かったのか」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
この記事を書いた人

ヌクレ博士
ヒーロ映画が大好きおじさん
ドラマの多いヒーロ物に弱い
歴代映画ランキングを是非見てね!
X:https://x.com/nucleotidefilm
結論から言います.
★5最高傑作です.
めちゃくちゃ泣きました.映画を観終わったあと,感情がグッチャグチャになりました.
- 評価は★5点満点.単体スパイダーマン映画の最高傑作
- 一番刺さったのは,ピーターが報われそうになるたび地獄へ落とされる構造
- 不満は,ジーン・グレイのヴィラン化がやや安直/ラスボス不在で物足りないこと
ただし,「欠点のない完璧な映画」という意味ではありません.
ジーン・グレイの使い方には思うところがあるし,ハルクには「今までのスマート・ハルクなんだったん?」と思ったし,ラスボスらしいラスボスがいないのも物足りない.
それでも★5です.
今作で一番良かったのは,ピーター・パーカーだからこそ,スパイダーマンは愛されるということを,これでもかというくらい描いていたところでした.
まずは,今作の主要人物をネタバレなしで整理しておきます.

『ノー・ウェイ・ホーム』とは比べられない
最初にこれだけは言わせてください.「『ノー・ウェイ・ホーム』とどっちが面白い?」と聞かれても,僕は比較できません.
『ノー・ウェイ・ホーム』は歴代スパイダーマンを観てきた人間への巨大なプレゼントだと思ってる.
トビー・マグワイア,アンドリュー・ガーフィールド,トム・ホランドの3人が同じスクリーンに立つなんて,そんなの冷静に点数をつけられるわけがない.
一方で『ブランド・ニュー・デイ』は,もっとピーター・パーカーそのものを描いた映画でした.
誰からも覚えられていない.
MJもネッドも自分を知らない.
それでもピーターは孤独にスパイダーマンを続けている.
スパイダーマンって,こうなんですよね.
強いから楽しいわけじゃない.
ヒーローをやったからといって幸せになれるわけでもない.
むしろヒーローをやればやるほど,大事なものが失われていく.
それでも人を助ける.
だからピーター・パーカーなんです.
MJとの関係が本当にひどい.最高です
今回,一番感情をぐちゃぐちゃにされたのがMJです.
僕は『ノー・ウェイ・ホーム』のラストがものすごく好きなので,今作を見る前からMJの記憶は簡単に戻してほしくないと思っていました.
あれだけ苦しい決断をしたのに,「なんか思い出しました!」で元通りになったら,前作のラストの重みが吹っ飛ぶじゃないですか.
だから今作でMJがピーターのことを思い出したような展開になったとき,最初の感情は正直「えー,戻しちゃうの?」でした.
作品としてはちょっと嫌だったんです.
でもね.目の前にはずっと孤独だったピーターがいるわけですよ.
ピーター本人は全部覚えている.
好きだったことも,一緒に戦ったことも,MJが自分を愛してくれていたことも.そのMJがようやく自分を思い出したように見える.
そしてキスする.
この瞬間はもう,作品の構造とかどうでもよくなりました.
良かったなピーター.
本当にそれだけです.「記憶戻す展開は嫌なんだけどなあ」と思いながら,完全にピーター側に感情移入してるんですよ.
しかもマスクの脱がせ方とか,過去シリーズを観ている人間には刺さるような演出まで入れてくる.
エモい.これはもう仕方ない.ピーター,やっと報われたじゃん.
……と思ったところで,MJの中身,ジーン・グレイでした.
はああああああああああ???
MJとのキスは罠だった.ジーン・グレイの精神攻撃がエグい
ぶっちゃけタイム開始です.
最高でした.
いや,最低ですよ.最低なんだけど,僕こういうの大好物です.
こっちは「MJの記憶が戻るのは嫌」と思っている.
でもピーターが嬉しそうだから,「まあ……良かったな……」と感情を持っていかれる.
そこまで丁寧にこちらを油断させて,実はヴィランの精神攻撃でした.
性格悪すぎる.
しかもMJの身体を使ってキスまでして,そのあと本人だとバラす.
ピーターの精神を壊す方法としてピンポイントすぎます.
殴れよ.
普通に殴ってくれ.
よりによって,ピーターが人生で一番欲しかったものを一瞬だけ与えてから取り上げるんですよ.
クソ腹立つ.
でもめちゃくちゃ好きです.
そして本物のMJに告白して,本当に振られる
さらにいいのが,これでMJ問題を終わらせないところです.
そのあと本物のMJはピーターの手紙を読み,ピーターが何者なのかを知る.
そしてしばらくしてピーターは,本当のMJに自分の気持ちを伝える.
今度こそジーンじゃない.本人です.
ピーターもようやく言えた.そして,振られる.
いやあああああ.
でも,これも良かった.
めちゃくちゃ辛いけど,この展開が良かった.
ここでMJが「全部分かった!私も好き!」となったら,結局『ノー・ウェイ・ホーム』以前の関係に戻っただけなんですよね.
でも戻らない.過去は消えている.MJにとってピーターとの恋愛は,自分自身が積み重ねた記憶ではない.
ピーターがどれだけ彼女を愛していても,それだけで元恋人に戻ることはできない.
だから振る.辛い.でも二人の関係そのものが消えたわけではない.
ここからまた知り合って,また相手を見ることができる.
昔の関係を取り戻すのではなく,新しい関係が始まる.
Brand New Day.
なるほどね.タイトルまで含めて大好きです.
ところでジーン・グレイ,美人すぎない?
ジーン・グレイを演じているセイディー・シンク,美人すぎませんか.
可愛すぎて死ぬかと思いました.
今回やってること,かなりエグいんですよ.人の精神に入る.
MJを乗っ取る.ピーターの一番痛いところを狙って攻撃する.
ハルクまで暴走させる.
普通なら「こいつ許さん」となるところなんですが,顔を見るたびに「いやでも可愛いな……」となる.ずるい.
ヴィランとして正しいのか分かりませんが,僕にはかなり効きました.
ジーン・グレイがヴィランなのは,ちょっと安直
とはいえ,ジーン・グレイの扱いには不満もあります.
X-MENが絡んでくること自体は「そろそろ来るよね」と思っていました.
ただ,ジーン・グレイをここまでヴィラン寄りにするのはちょっと安直だったかなと思います.
しかも彼女の過去や苦しみもかなり描かれるので,途中から「これジーン・グレイのオリジン映画だったっけ?」というくらいジーンの話になる.
つらい過去があるのは分かるんですが,個人的には少し唐突でした.
ただし,ここからがこの映画のずるいところです.
僕が一番泣いた場面には,そのジーンがいるんです.
ジーンの過去や,サラが残した「V-MAX」の意味については,別記事で詳しく振り返りました.
ダメージ・コントロール局長の正体と、ピーターが嘘に気づいた理由
メイおばさんの言葉で完全にやられた
今作で一番好きなシーンです.メイおばさん.ピーターの記憶を通じて,ジーンがメイの言葉に触れる.正確なセリフそのものというより,僕にはこういう意味に聞こえました.
「大いなる力には,大いなる責任が伴う」
でも,大きな力を持つということは,きっと苦しい.
その力を呪いのように感じることもある.
こんなもの手放してしまいたいと思うこともある.
だけど,その力があなたなのではない.
力があるから愛されるわけじゃない.
特別だから愛されるわけでもない.
あなたがあなただから,人はあなたを愛する.
もうダメでした.大泣きよ.
これ,ピーターに対する言葉なんですけど,同時に完全にジーンへの言葉でもあるんですよ.そして僕に対する言葉でもある(は?)
ピーターはスパイダーマンという力を持ったせいで,大切な人を失ってきた.
自分の存在まで世界から消した.
それでも責任を捨てずに戦い続けている.
そんなピーターに,「スパイダーマンだから価値があるんじゃない.ピーター・パーカーだから愛されるんだよ」と言っているようにしか見えない.
泣かない人いる?
そのあと病院で,本当に証明するのがズルい
そして最高なのが,メイの言葉を感動的なセリフだけで終わらせないところです.
そのあとピーターは病院に運ばれます.
そして病院から抜け出そうとすると,外には大勢の人が集まっている.
何をしているのかと思ったら,みんなスパイダーマンの回復を祈っている.
世界の誰もピーター・パーカーを覚えていません.
ピーターが誰なのか知らない.
何を失ったのかも知らない.
どんな気持ちで戦ってきたのかも知らない.
でもスパイダーマンは知っている.街を守ってくれた人として,ちゃんと愛されている.
そしてピーターを逃がすため,パニッシャーがスパイダーマンの偽物になる.
マスクを被って姿を見せると,外にいる人たちが「スパイダーマンが復活した!」と大喜びする.
ここでもうダメでした.ピーターが今までやってきたことは,全部ちゃんと残っていた.
本人の名前なんて誰も知らなくても,ピーターが積み重ねてきた行動は街に残っている.
そしてさっきのメイの言葉につながる.ピーターがスパイダーマンだから愛されるんじゃない.
ピーターという人間がスパイダーマンをやってきたから,スパイダーマンが愛される存在になったんです.
そこが本当に良かった.
パニッシャー,お前めっちゃいい奴じゃん
パニッシャーについては,正直そこまで思い入れがありませんでした.
でもこの映画でめちゃくちゃ好きになりました.
ピーターとパニッシャーって,かなり対照的なんですよね.
フランク・キャッスルは,悪人を殺すという手段を選ぶ.
ピーターはどれだけ酷い相手でも,基本的に救おうとする.
でもフランクだって好きでそうなったわけじゃない.彼にもつらい過去がある.
だから単純に「殺すパニッシャーは悪い.殺さないピーターは偉い」という話ではない.
そんなフランクが,最後にはピーターを真のヒーローだと認める.そして泣く.
めちゃくちゃグッときました.フランクにはできない生き方をピーターがやっている.
何度裏切られても,何度傷ついても,それでも人を殺さず,人を救おうとする.
それを一番理解できるのが,むしろパニッシャーだったのかもしれません.
しかも何だかんだ言いながらピーターを助ける.いいバディじゃん.今後も出てくれ.
ここまでの人物関係を,ネタバレありの相関図で整理しておきます.

ハルク,お前はちょっと待て
ここから明確な不満です.
今までスマート・ハルクまでやってきたブルース・バナーはなんだったんでしょうか.
スパイダーマンVSハルク.そりゃ見たい.
アクションとしては大歓迎です.でも便利に暴走しすぎじゃない?
『エンドゲーム』以降,バナーとハルクの関係にはある程度の決着がついていたはずです.
そこからまた暴走するなら,僕は暴れるハルク以上にバナー本人がどう思ったのかを見たかった.
また自分の身体を制御できなくなった怖さとか,今まで積み上げたものを崩された怒りとか,もっとあるじゃん.
そこをほぼ置いていって「ハルク暴れた!ピーター戦う!」なのはちょっともったいなかったです.
ラスボスがいないのも,ちょっと物足りない
もう一つ不満.もっと戦ってくれ.
今作にはいわゆる「こいつがラスボスです!」という分かりやすい最終決戦がほぼない.
もちろん物語としては分かります.今回のピーターが戦っているものは,単純なヴィランじゃない.
孤独だったり,喪失だったり,能力を持つことの苦しみだったり,自分自身をどう受け入れるかだったりする.
だから最後を殴り合いだけで解決しないのは,テーマとして正しい.
てかこれ最近見たよね.サンダーボルトで
正しい.でも,ヒーロー映画なんだからあと15分くらい強えやつと殴り合ってくれても良くない?とは思いました.
スコーピオン,長年引っ張った割には悪くなかった
そしてスコーピオン.
散々伏線を張られたキャラクターなので,「こんなに待たせてどうするんだ?」とは思っていました.弱そうだしね.
でも実際に観てみると,今回の扱いはまあ悪くなかったと思います.
むしろ今作で無理やり超巨大ラスボスにするより,これくらいの方が自然だったかもしれません.弱そうだしね.
長年待たされたことを考えると,もうちょっと見たかった気持ちはありますけどね.
でも弱そうだからね.仕方ない.
「ピーター2」とキスシーン.オマージュがいちいちエモい
そしてスパイダーマンシリーズを観てきた人間として嬉しいのが,小ネタとオマージュです.
特に「ピーター2」.『ノー・ウェイ・ホーム』を観ている人間には刺さるやつ.
こういう過去作とのつながりをサラッと入れてくるの,めちゃくちゃ好きです.
そして例のMJとのキス.マスクの脱がせ方まで含めて,「おいおい,過去シリーズのあれじゃん」となる.
エモい.めちゃくちゃエモい.……中身ジーンだけど.改めて考えると腹立ってきました.
僕の中では単体スパイダーマン映画の最高傑作
ここまで結構文句も言いました.
ジーン・グレイをヴィラン寄りにしたのは少し安直.
ハルクの扱いはもっと掘ってほしかった.
ラスボス戦も欲しかった.
MJへの精神攻撃はクソ腹立つ.
それでも★5です.
なぜなら今回のピーターが,あまりにもピーター・パーカーだったからです.
誰にも覚えられていない.恋愛もうまくいかない.何度も傷つく.それでも人を助ける.自分を傷つけたジーンすら救おうとする.
そして本人が知らないところで,街の人たちはスパイダーマンを愛していた.パニッシャーもピーターを本当のヒーローだと認めた.
でも映画は,そのご褒美としてMJを返してはくれない.
そこがいい.失ったものは簡単には戻らない.『ノー・ウェイ・ホーム』の犠牲も消えない.
ただし,人生はそこで終わるわけでもない.MJとの関係も,昔に戻ることはできないけれど,新しく始めることはできる.ピーターにも次の日が来る.
Brand New Day.
ビターで,苦しくて,それでも崇高な「親愛なる隣人」の物語でした.
『ノー・ウェイ・ホーム』は,スパイダーマン映画史そのものを祝うような特別な作品です.
でも一本のピーター・パーカーの物語として選ぶなら,僕は今作が一番好きです.
★5満点.たぶんもう一回観ます.
以上,ご清聴ありがとうございました.
