なぜ仕事より「説明する仕事」が増える?大企業の社内説明が終わらない理由

なぜ仕事より「説明する仕事」が増える?大企業の社内説明が終わらない理由

「なぜ仕事より『説明する仕事』が増えるのか?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

大きな会社で仕事をしていると,仕事そのものより「仕事を説明する仕事」が増えることがあります.

別の部署へ説明する.上司へ説明する前にレビューする.その上の人にも説明する.研修資料なら,上司に見せて,その上にも見せて,さらに別の担当者にも見せる.相手が変われば前提知識も変わるので,説明を作り直して,想定QAを考えて,宿題を持ち帰る.

もちろん,レビューそのものが悪いとは思っていません.重要な資料なら何度レビューしたっていいし,違う視点から見てもらえば普通に良くなります.

僕がよく分からないのは,そこではありません.

説明する必要ある?見りゃよくね?

新しいことを始めようとした瞬間に説明と確認が増えていく問題は,「会社で挑戦が始まらない理由」ともつながっています.

僕の周囲では,一つの話について何十回も説明するのが普通というわけではありません.チャットだけで終わる仕事もかなりあります.ただ,関係者が増えたり,上の人への説明が必要になったり,別部署へ話を持っていったりすると,説明は簡単に増えます.

そして大企業では,そもそも関係者が多い.

だったら「説明する仕事」が増える原因は,会議が好きだからとか,資料文化だからとか,そんな単純な話だけではないんじゃないか.

では蓋を開けてみよう.

新しいことを始めようとした瞬間に説明と確認が増えていく問題は,『会社で挑戦が始まらない理由』ともつながっています.

https://www.d-life.nucleotide-blog.com/work/company-employees-dont-challenge

大企業では,情報が人をまたぐたびに説明が増える

僕がまず大きいと思っているのは,単純に関係者の多さです.

一つの仕事でも,自分のチームだけで完結しないことがあります.別の部署が関わる.その部署にも担当者と上司がいる.さらに別の担当領域が絡む.相手が変われば,知っている前提も変わります.

だから同じ内容でも,そのまま横流しにはできない.相手に合わせて前提を説明して,想定される質問を考えて,その場で答えられなければ宿題を持って帰る.

これはある程度仕方ないと思います.関係者が多ければ,コミュニケーションコストが増えるのは当然です.

実際,APQCが982人のフルタイム知識労働者を対象に行った調査では,週40時間のうち平均30時間しか生産的な仕事に使えていないと回答されていました.内訳を見ると,週3.6時間が社内コミュニケーションの管理,2.8時間が必要な情報の探索・依頼,2.2時間が不要または非生産的な会議に使われています.

つまり,情報を探す,人に聞く,説明する,集まるという仕事が本業を食っている問題自体は,僕だけの感覚ではなさそうです.

ただし,関係者が多いことだけを原因にすると,「大企業だから仕方ない」で終わります.

僕はそうは思っていません.

関係者が多いからこそ,情報の置き方をちゃんとしないと,同じ説明を何度もする羽目になるんだと思っています.

長い資料を作るから読まれない.読まれないから説明する

社内共有でよくあるのが,「資料を送ったけど読まれない」という問題です.

これについて僕は,読む側だけが悪いとは思っていません.そもそも資料が長い.だから読まれない.タイトルや見出しがクソつまらなくて,読む気にならないことだってあります.

僕の感覚では,普通の共有資料なら3〜5分で説明できるくらいの情報量で十分なことが多いです.それなら読む側は1分程度で読める.メインは数ページ程度にして,細かいものは参考資料へ逃がせばいい.

ところが,仕事では「抜けがないこと」が評価されやすい.MECEだの5W1Hだのを埋めて,想定質問を全部潰して,長くて立派な資料ができあがる.

ぶっちゃけ,伝わりゃそんなのなくていいのよ.

もちろん,情報が足りない資料もダメです.相談したいのに,文字が数行だけ書いてある1枚を持ってこられても困る.それだけならチャットで送ってくれと思います.

相談なら,「何を相談したいのか」「相手に何をしてほしいのか」「その判断に必要な情報は何か」が分かればいい.短ければ正義ではなく,目的に対して必要十分であることが大事です.

そして資料の成果は,「作った」でも「説明した」でもありません.

相手が行動したかです.

質問がたくさん出るのはいいことです.
質問が出たなら,少なくとも相手の頭には入っている.その場で質問がなくても,あとで考えて行動につながればいい.

逆に30分きれいに説明して,全員が「ありがとうございました」と言って,誰も何もしなかったら何の成果なんだよ.

資料作成発表会じゃねえんだぞ.

研究でも,情報共有は増やせば増やすほど良いとは限らないことが示されています.2024年の日本経営学会の研究では,ICTを介した情報共有によるコミュニケーション過多が,情報理解を妨げる認知的負荷を通じて職務成果へ悪影響を与えることが示されました.一方で,情報を整理・維持し,適時かつ正確にやり取りするコーディネーションは,負荷を下げる方向に働いています.

つまり,「全部共有しろ」でも「全部説明しろ」でもない.

必要な情報を,読める量にして,分かる場所に置け.

僕が言いたいのはかなりこれです.

DMと裏ネゴに閉じるから,同じことをまた説明する

ぶっちゃけタイム開始です.

僕は裏ネゴがかなり嫌いです.DM,電話,対面だけの会話,こっそり開かれる打ち合わせ.もちろん,個人情報や人事の話など,閉じなければいけない情報はあります.何でも全世界へ公開しろという話ではありません.

ただ,普通の仕事の話まで閉じる必要ある?

ここは人によるとも思っています.オープンに情報を残す人も普通にいる.一方で,大人数の場所では発言したくない,DMの方が話しやすい,こっそり相談したいという人もいます.

その気持ち自体は分からなくもないです.オープンな場所で発言したら,間違っているかもしれない.変なことを言ったと思われるかもしれない.怒られるかもしれない.

心理的安全性の研究でも,職場で発言することは「対人的リスク」として扱われています.また,従業員が意見を表明するかどうかには,組織内の階層や相手の地位も関係することが研究されています.だから,オープンな場所で話したがらない人を「全員ただの怠け者」と片付けるつもりはありません.

でも,ここからは僕の持論です.

てめえのプライドのせいで説明増えとるんや.

2人のDMに仕事の経緯を閉じれば,その2人は快適です.間違えても大勢には見られないし,話も早い.でも3人目が入ってきたら,誰かが説明する.別部署の4人目が来たら,また説明する.担当が変わったら,また説明する.

関係者が多い大企業でこれをやると,閉じたコミュニケーションのツケを後から何度も払うことになります.情報が組織に残らず,人の頭に残るからです.

最近は実務の世界でも,DMや記録されない会話に情報が閉じる問題が改めて注目されています.特に生成AIを社内知識へ活用する企業では,AIから参照できない私的な会話より,組織から参照できる情報を増やそうとする動きも出ています.

僕自身は,これをかなり草の根でやっています.なるべくDMを使わない.DMで仕事の話を振られたら,必要に応じて関係者が見られるチャットへ移す.普段から「隠したがるのはよくない」と言う.こっそり共有された内容も,閉じる必要がないならオープンな場所へ戻す.

最終的には,「こいつには裏で話せない」と思われればいいと思っています.

秘密を守れない人になりたいわけではありません.守るべき情報は守る.でも,仕事の情報は「基本は隠す」ではなく,「基本はオープン,閉じる理由があるときだけ閉じる」くらいでいいと思っています.

こういう仕事の仕方を変えると,当然最初は不便も出ます.僕はこれを「変化コスト」だと思っています.

変化コストが生じでもそのうち変化した普通に慣れます.
つまりやるのが先、問題は自然に解決されるのです

会社はなぜ変化を嫌う?現状維持が続くのは『変化コスト』が高いから

共有は読め.でも人を動かしたいなら説明した方がいい

ここまで散々「説明を減らせ」と書いてきましたが,僕は説明そのものが嫌いなわけではありません.

むしろ,人に協力してほしいときは説明した方がいいと思っています.

「これをやってください」と文字で送るだけでは伝わらないものがある.「君しかいない」「俺は信頼している」「絶対にこれをやりたい」みたいな熱は,文章だけより直接話した方が伝わることがあります.

だから僕の中では,共有と協力依頼はかなり違います.

共有なら見ろ.
協力してほしいなら説明する.

共有は情報を渡すことが目的です.だったら短く書いて,あとから誰でも見られる場所へ残せばいい.一方で協力依頼は,人に動いてもらうことが目的です.そこには背景だけでなく,熱量や信頼まで伝えた方がいいことがある.

この二つを全部「説明」という一つの手段で処理するから,説明する仕事が増えるんじゃないかと思っています.

共有のために30分集める.資料を読み上げる.質問がなければ解散する.そして次の人にも同じ説明をする.

読め.

逆に,本気で人を動かしたいなら,資料作って満足すんな.送って終わるな.
資料を読むだけなら説明するな.熱を入れて話せ.

説明を減らすというのは,人とのコミュニケーションを減らすことではありません.説明する価値があるところに,人間の時間を使うという話です.

「説明する仕事」を一つやめれば,本当の仕事が一つ戻ってくる

ここまで調べてみて,大企業で社内説明が多くなる理由を「会議が多いから」だけで片付けるのは違うと思いました.

そもそも関係者が多い.そこへ長い資料を投げれば読まれず,説明が追加される.DMや電話や裏ネゴに情報を閉じれば,新しい人が入るたびに文脈を説明し直す.さらに,公開の場で間違えることを避けようとすれば,情報はまた閉じやすくなる.

一個一個は小さな話です.でも関係者が多い組織では,この小さな摩擦が人数分だけ増えていく.

だから僕は,「もっと効率的に説明する方法」を考える前に,その説明が本当に必要なのかを考えた方がいいと思っています.

AIで立派な資料を爆速で作れる時代になりました.でも入力がクソなら,出てくるものもクソです.意味のない画像で余白を埋めて,なんとなくきれいなスライドを大量生産しても,本当に伝えるべきことが分からなくなったら意味がない.

クソ資料を爆速で作れるようになってどうする.

AIを使うなら,僕はむしろ逆に使いたいです.長い文章を短くする.言いたいことを全部投げて構造を整理させる.壁打ちして,本当に必要な論点を削り出す.

そして,説明自体を一つ消す.

情報共有だけなら,短く書いてチャットへ置く.閉じる理由がなければ,関係者が見られる場所へ残す.協力してほしいとき,議論したいとき,その場でしか伝わらない熱があるときは,ちゃんと話す.

会社から説明を全部なくす必要なんてありません.

明日,一個やめればいい.

心構え:説明したことを成果にするな.伝わって,相手が動いたかを成果にしろ.
君が明日からできること:明日ひとつだけ説明をやめよう.読めば分かるものまで会議を開くな.短く書いて,チャットに置け.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考文献・参考資料

・APQC, “APQC Survey Finds One Quarter of Knowledge Workers’ Time is Lost Due to Productivity Drains”, 2021.
・大沼沙樹,村瀬俊朗「ICTを介した情報共有で生じる認知的負荷に及ぼすコーディネーションの効果と職務成果への影響」日本経営学会誌,第56巻,2024.
・Amy C. Edmondson, “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”, Administrative Science Quarterly, 1999.
・Chamberlin et al., “The hierarchy of voice framework: The dynamic relationship between employee voice and social hierarchy”, Research in Organizational Behavior, 2022.