※この記事は『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』終盤の重大なネタバレを含みます.未鑑賞の人は映画を観てから戻ってきてください.
「『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』のV-MAXとは何だったのか」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
結論から言うと,V-MAXは超人薬や秘密計画の名前ではありません.サラが死の直前に見ていた天井の文字であり,その視界と感情がジーンへ流れ込んだものです.だからジーンは同じ天井を見た瞬間,V-MAXの意味とサラの最期を理解しました.
映画を観ている途中,僕はV-MAXを完全に超人薬の名前だと思っていました.『ザ・ボーイズ』のコンパウンドVみたいなものをダメージ・コントロールが作っていて,それがジーン・グレイの能力やX-MENにつながるんじゃないかと勝手にワクワクしていたんです.だって「V-MAX」ですよ.どう考えても飲んだら血管が光って,目からビームが出そうな名前じゃないですか.
そして終盤,ジーンが天井を見上げた瞬間にようやく分かりました.V-MAXはサラが意味を込めて送った暗号ではなく,サラの最期の視界に焼き付いていた文字だったのです.正直,最初は「そっちかい」と思いましたが,整理してみると超人薬よりずっと救いがなくて,めちゃくちゃ胸糞の悪い答えでした.
では蓋を開けてみよう.
※この記事では映画内の表記に合わせて「V-MAX」と書きますが,検索では「VMAX」「V MAX」「ブイマックス」と調べている人も多いようです.
V-MAXとは?薬ではなくサラが見ていた天井の文字
V-MAXはどう見ても超人薬っぽい
V-MAXという言葉が出てきた時点では,何を指しているのかほとんど説明されません.ダメージ・コントロールが怪しい研究をしている.サラに何かが起きた.ジーンはV-MAXという断片を手がかりに真相を追っている.この情報だけ渡されたら,普通は実験名か薬品名だと思います.
僕が最初に連想したのは,『ザ・ボーイズ』のコンパウンドVでした.人間に特殊能力を与える何かがあって,その研究がジーンや今後のX-MENにつながっていく.MCUならやりそうだし,名前も露骨に強そうなので,「はいはい,覚醒イベントの仕込みね」と完全にそのつもりで観ていました.
もちろん,コンパウンドVを知らない人には伝わりにくい例えだと思います.要するに僕は,V-MAXを「飲むか打つかすると超人になる,ものすごく重要な何か」だと思っていたわけです.ところが,蓋を開けてみると天井でした.いや,天井かい.
ここだけ切り取ると,かなりの拍子抜けです.V-MAXという仰々しい名前で引っ張っておいて,特別な薬でも秘密兵器でもなく,サラが最後に見ていた文字だった.僕の頭の中で勝手に始まっていたX-MEN計画が,ものすごい勢いで閉幕しました.
サラはV-MAXを「送った」のではない
ただ,この場面で重要なのは,V-MAXが何の名前だったかではありません.サラが自分の意思で「V-MAXを調べて」とジーンへ送ったのか,死の直前に見えていたものが勝手に流れ込んだのか.どう考えても後者です.
サラは落ち着いて遺言を残せる状態ではなかったはずです.恐怖や苦痛の中で最後に見ていた天井の文字が,感情と一緒にジーンへ無理やり流れ込んでしまった.だからジーンの中には「V-MAX」だけが残ったのに,それが何を意味するのかは分からなかったのだと思います.
ここ,サラが残したメッセージと考えると少し綺麗すぎるんですよね.サラは死の間際まで冷静に手がかりを選び,ジーンへ託したことになる.でも実際には,そんな綺麗な別れすら許されなかったんじゃないでしょうか.
そしてV-MAXって正直何のヒントにもならない.手がかりですらなかったわけですし.
言いたいことを言葉にする時間もない.助けてとも言えない.ただ最後に見えた無機質な文字だけが,受け取る相手も選べないまま漏れ出した.そう考えると,V-MAXは暗号ではなく,サラがどんな状態で死んだのかを示す傷跡です.
これなら,ジーンが長い間V-MAXの正体をつかめなかった理由にも納得できます.ジーンは「V-MAXとは何か」を探していた.当然,その名前自体に秘密があるわけでもなく,ダメージ・コントロールをどれだけ調べても,何も見つからない.
本当に探すべきだったのは,その言葉の意味ではなく,「サラはどこで,どんな姿勢で,なぜその文字を見たのか」だったんです.
天井を見た瞬間,答えより先に絶望が来る
終盤,ジーンが天井のV-MAXを見たことで,ようやくすべてがつながります.サラはここにいた.最後にこの天井を見ていた.ジーンの中に残っていた文字は,場所を示すために選ばれたものではなく,サラの最期そのものだった.しかもV-MAXもそういう文字じゃなくて,経年劣化した結果そう見えるだけの無機質な文字ですよね…
普通の謎解きなら,伏線が回収された瞬間は気持ちいいはずです.「そういうことだったのか」とスッキリする.でもV-MAXは逆でした.意味が分かった瞬間,サラが最後に見ていた景色まで想像できてしまうので,整理すればするほど気分が悪くなる.
僕は天井のシーンで意味が分かりましたが,少々分かりにくかったです.映画側が「サラの視界が流れ込んだ」と丁寧に説明するわけではないので,最初はV-MAXという設備や計画が別に存在するのかとも考えました.
僕の中では最初に拍子抜けがあり,そのあと意味を考えているうちに,じわじわ絶望感が増してきました.派手な覚醒用の超人薬より,最後に見た天井だけが残る方が何倍もかわいそうです.そう,大好物です.
しかも,この真相にたどり着いたジーンが覚醒する.演出としては「来たな」と思いました.サラの最期を理解してしまった怒りと悲しみが一気にあふれるので,能力が爆発する理由としては強いです.ジーンの正体を隠して進む展開だったから仕方ないですが,よりジーンとサラを中心に話を展開してたら,さらに刺さったと思います.
ぶっちゃけ,ダメージ・コントロールは敵を増やしすぎ
ぶっちゃけタイム開始です.またダメージ・コントロールかよ.
MCU,全体を通して組織側のやらかしで敵が増えすぎではないでしょうか.怪しい研究をする.能力者を雑に扱う.取り返しのつかない犠牲が出る.生き残った人がブチ切れる.そしてヒーローが後始末をする.もう世界を守る前に,組織の採用と監査を一回ちゃんとやってくれ.
しかも今回の局長,悪役としての魅力があまりありません.圧倒的な思想もなければ,見ているだけで震えるようなカリスマもない.小物感がすごいのに,やったことと被害だけはMCU級です.
これが妙に腹立つんですよね.サノス級の大悪党が宇宙の運命を懸けて暴れるなら,まだ物語として覚悟ができる.でも,たいして魅力もない権力者が「必要な研究でした」みたいな顔をして人を壊し,その結果だけ世界規模になるのは,現実味のある嫌さがあります.
もちろん,だからといってジーンがピーターやMJにやったことまで正当化されるわけではありません.MJの身体を使ってピーターを精神的に破壊した件は,改めて考えてもクソ腹立つ.被害者だったことと,他人を傷つけていいことは別です.
それでも,サラの最期とV-MAXの意味が分かると,ジーンを単純なヴィランとして切り捨てにくくなります.悪役として登場したというより,ダメージ・コントロールが自分たちで壊して,自分たちで敵にしたように見える.また敵を一人製造しておいて,後処理をスパイダーマンへ投げる.ピーターの人生,ただでさえ地獄なのに仕事を増やすな.
V-MAXについてのQA集
Q: V-MAXは超人薬や実験の名前?
A: 薬や実験名ではなく,サラが最後に見ていた天井の文字です.
Q: サラはジーンへ意図的にV-MAXを送った?
A: 僕は,サラが暗号として送ったのではなく,死の直前の視界と感情がジーンへ無理やり流れ込んだと考えています.
Q: ジーンはなぜ天井を見て意味が分かった?
A: ジーンの中に残っていた「V-MAX」と,実際の天井の文字が一致したことで,サラがその場所で何を見ながら死んだのか理解したのだと思います.
V-MAXは薬ではなく,サラの最期に残った傷だった
整理すると,V-MAXは超人薬でも,能力を引き出す装置でも,X-MENへ直結する大げさな秘密計画でもなかったのだと思います.サラが死の直前に見ていた天井の文字であり,その視界が恐怖や苦痛と一緒にジーンへ流れ込んだ.だからジーンは天井を見た瞬間,ようやくサラの最期を理解した.
最初に答えだけ知ったときは,正直拍子抜けしました.V-MAXなんて名前を出されたら,そりゃもっと強そうなものを期待する.コンパウンドV的な超人薬から天井への落差はすごいです.でも,今は天井でよかったと思っています.
もしV-MAXが超人薬なら,話は「ダメージ・コントロールが危険なものを作っていました」で終わる.天井の文字だったからこそ,サラが最後に何を見て,ジーンに何が流れ込み,なぜあそこまで壊れたのかが一つにつながります.
気持ちよく回収される伏線ではありません.分かったところで誰も救われないし,サラの死が重くなるだけです.でも『ブランド・ニュー・デイ』は,ピーターにもジーンにも簡単な救いを与えない映画でした.V-MAXも,その嫌な徹底ぶりを象徴する言葉だったのだと思います.
薬だと思ってワクワクしていた自分が,だいぶ恥ずかしい.ただ,映画がもう少し分かりやすく見せてくれてもよかっただろとは,今でも思っています.
以上,ご清聴ありがとうございました.
V-MAX以外にも分かりにくかった部分を個別に整理しています.
・映画全体の評価と感想
・ジーンがMJの身体を使ったキスシーンの解釈
・ダメージ・コントロール局長の正体とリスク管理
まず映画全体を振り返りたい人は,ネタバレ感想からどうぞ.
