「管理職に向いてない人って,どんな人?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
管理職になる前の僕は,「管理職って,間違えない人がなるもの」だと思っていました.責任が大きいし,判断を間違えたら影響も大きい.だから細かいミスが多い自分は,あまり向いていないんじゃないかと思っていました.
で,実際に管理職になった今も,僕は普通に間違えます.特に事務処理です.申請,入力,細かい確認.こういう仕事は昔から苦手で,今も別に克服できていません.
じゃあ管理職に向いていなかったのかというと,今の僕はそう思っていません.むしろ管理職になってみて,「間違えないこと」よりずっと大事だった能力がありました.
人に仕事を振れることです.
では蓋を開けてみよう.
管理職になる前は,「間違えない人」が向いていると思っていた
僕はもともと技術屋になりたかった人間です.専門職にも憧れていたし,博士まで取りました.その頃の僕が専門職に持っていたイメージは,「高度なことを,高い精度で間違えずにできる人」でした.
でも僕は,論文を書けば誤字脱字をするし,細かい事務処理でもミスをします.技術的な判断を大きく外すことはあまりないのですが,注意力をずっと一定に保つような仕事は得意ではありません.
だから管理職になる前は,「責任が大きくなるなら,なおさら間違えちゃダメなんだろうな」と思っていました.ところが,管理職になっても僕の事務処理能力が突然覚醒することはありませんでした.
そりゃそうだ.
今でも間違えます.それでも仕事は回っています.管理職に必要なのは,弱点が全部消えることではありませんでした.
実際になって一番大事だと思ったのは,「人に仕事を振れる力」
管理職になってから,「これがないと厳しいな」と一番感じたのは,人に仕事を振れる力です.
ただし,僕の言う「仕事を振る」は,タスク表から適当に人へ割り当てることではありません.同じ事務作業でも,「これを覚えれば次の仕事につながる」「これはチーム全体のために必要だからお願いしたい」と,その人がやる意味を持てるように渡す.僕は,やる気を持って取り組んでもらえる言い方まで含めて,仕事を振る力だと思っています.
自分でやった方が早い仕事でも,成長につながるなら最初は本人にやってもらいます.最後に僕が直すこともあるし,納期が危なければ途中で引き取ることもあります.最初から全部自分でやったら,その人に経験が残らないからです.
2024年の権限委譲に関する研究でも,管理職は何でも一律に任せるわけではなく,部下が持つ知識,仕事の性質,管理のしやすさなどを見ながら委譲の程度を変えていました.
「任せる管理職が正義」という単純な話ではありません.でも,自分の方が上手だからという理由だけで全部持っていくのも違うと思っています.
僕は人を見るのは得意.でも事務処理は今でも苦手
管理職になって,自分に向いていると思ったこともたくさんあります.一番は,人を見ることです.
僕は部下の人柄や特技をかなり褒めます.成果や挑戦も褒めますが,それ以前に「その人がその人であること」をちゃんと認めたいと思っています.その一方で,結果には結構厳しいです.うまくいかなかったことは,うまくいかなかったこととして真摯に受け止めようと話します.
人を否定することと,仕事の結果を厳しく見ることは別です.
たくさん褒めているからなのかは断定できませんが,みんなが明るく話してくれるのはすごくうれしいです.成長している実感がある人って,表情も明るくなるし,自信を持ってたくさん話すように見える.それを見ていると幸せです.
もう一つ得意だと思うのが,新しい仕事を作ることです.現場の困りごとや,将来必要になりそうなことから新しいテーマを立ち上げる.これは管理職になった今もかなり好きです.
逆に,細かい事務処理は今でも苦手です.なので,なるべく人にやってもらいます.正直,申し訳ないなと思うこともあります.
管理職になったからといって,全部の弱点が消えたわけではありません.得意なところも,苦手なところも普通に残っています.
「難しい」と感じることと,「向いてない」は同じではない
検索すると,「管理職に向いていない人の特徴」として,コミュニケーションが苦手,仕事を任せられない,数字や調整が苦手,完璧主義など,いろいろなチェックリストが出てきます.
もちろん参考にはなると思います.でも,僕はチェック項目に一つ当てはまっただけで「管理職に向いてない」と決めるのは雑だと思っています.
2026年に管理職500人を対象にしたリクルートマネジメントソリューションズの調査では,管理職自身が重要だと考える役割の1位は「メンバーの育成」で46.0%でした.一方で,日々のマネジメントで難しいことの1位も「メンバーの育成・能力開発」で54.0%,2位は「メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」で41.0%でした.
重要だと思っている仕事ほど,簡単にできるわけではありません.難しいと感じていること自体は,即座に不適性の証明にはならないと思います.
さらに,335の独立サンプルをまとめたリーダーシップ研修のメタ分析では,研修によって知識だけでなく,職場での行動への転移や成果にも改善が見られました.もちろん,「研修を受ければ誰でも優秀な管理職になれる」という意味ではありません.
ただ,管理職に必要な能力のすべてを「生まれつき向いてるかどうか」だけで片づけるのも,ちょっと雑そうです.
僕自身,若い頃は技術屋になりたくて,人そのものにはあまり興味がありませんでした.人を動かすことも,できないわけではなかったけれど,かなりストレスでした.その一方で,昔から後輩には意外と腹が立たなかったし,面倒見はかなりいい方でした.
少なくとも,昔の僕が自分に下していた「向いてる・向いてない」判定だけでは,今の自分はあまり当てられていませんでした.
僕が本当に「管理職に向いてない」と思うのは,部下を大事にできない人
では,僕が本当に管理職に向いてないと思うのはどんな人か.細かいミスをする人ではありません.話すのが少し苦手な人でもありません.
部下を大事にできない人です.
特に,立場の弱い部下をいじめる人.部下を見て簡単に「使えない」「無能」と思う人.僕はこういうタイプは管理職をやると本人もしんどいし,周りもしんどいと思っています.
もちろん,部下側に改善すべきところがないと言っているわけではありません.僕も結果には厳しくします.何度言っても変わらなければイラっとするし,焦ることもあります.
ただ,成長する機会を与えたか.いいアドバイスができたか.そこまでは管理職である自分の仕事だと思っています.その機会を本人がどう使うかまでは,最後は本人の問題です.
人を甘やかすことと,人を見捨てないことは別です.
僕は,管理職にはこの線引きがかなり大事だと思っています.
管理職の適性は,「全部できるか」ではなく「何を自分で持つか」
管理職になっても,僕は事務処理を間違えます.細かいミスもします.予算を取りに行くような駆け引きも,そこまで得意ではありません.一方で,人を見ること,新しい仕事を作ること,人に仕事を振ることはかなり得意だと思っています.
管理職になる前は,「間違えない人」が向いていると思っていました.今は違います.僕が一番大事だと思うのは,自分が全部やることではなく,誰に何を任せればチームが前へ進むかを考えられることです.
そして,自分の苦手を人に任せても,部下の成長やチームの結果まで「知らんがな」と投げないこと.
管理職に向いてるかどうかって,性格診断の○×だけでは決まらないと思います.「ミスが多いから向いてない」と悩んでいるなら,それだけでは判断しなくていい.僕は今でもミスします.
逆に,人を大事にする気がないなら,僕はそっちの方がよっぽど厳しいと思います.
技術職で出世する前に必要な能力については,以前の記事でかなり詳しく書きました.今回は「出世できる人」ではなく,「実際に管理職になった僕が,自分の向き不向きをどう見ているか」に絞りました.
→ 技術職で出世する人の特徴|評価される人と出世する人は別物だった
以上,ご清聴ありがとうございました.
参考文献・参考資料
・株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2026」2026年.
・Williams C, Van Triest S. “Following the chain of command? How managers balance benefits and risks in granting autonomy to employees.” European Management Journal. 2024;42(1):89-97. doi:10.1016/j.emj.2022.08.007
・Lacerenza CN, Reyes DL, Marlow SL, Joseph DL, Salas E. “Leadership training design, delivery, and implementation: A meta-analysis.” Journal of Applied Psychology. 2017;102(12):1686-1718. doi:10.1037/apl0000241
