技術者のキャリアパスは管理職しかない?専門職を目指した僕の選択

技術者のキャリアパス

「技術者のキャリアパスは管理職しかないの?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

僕はもともと,研究者になりたかった人間です.理由を聞かれたら,まず「かっこいいから」と答えます.研究を極める人への憧れがあって,会社で技術の仕事をしながら博士号も取りました.

その一方で,出世もしたかった.お金も欲しいし,自分で決めて動かせる仕事を増やしたかったからです.専門職を本気で考えながら,管理職になる道も目指していました.

そして今,僕は管理職をしています.研究者への憧れが消えたかと聞かれたら,消えていません.でも「今から研究者と管理職のどちらかを選んでいい」と言われたら,管理職を選びます.

専門職を目指して博士まで取ったのに,今は管理職を選ぶ.

技術者のキャリアって,思ったより単純な二択じゃないんですよね.では蓋を開けてみよう.

技術者のキャリアパスは,管理職だけではない

まず結論から言うと,技術者がキャリアアップする道は管理職だけではありません.研究者や専門職として技術を掘り下げる道もあれば,技術テーマやプロジェクトを率いる道もあります.

例えば,パナソニック ホールディングスには,高い専門性で事業に貢献する技術者を評価する「高度専門職制度」があります.専門性を高めながらキャリアアップするための制度で,管理職とは別の道が実際に用意されている例です.

また,IT分野の例にはなりますが,情報処理推進機構のITスキル標準でも,「ITスペシャリスト」と「プロジェクトマネジメント」は別の職種として整理されています.なお,この分類は人事上の役職や給与の上下を定めたものではありません.

では,技術者の仕事はどんな方向へ分かれるのか.大まかには,次のように考えられます.

研究者は,研究課題を深く追究し,新しい知見や技術を生み出す仕事です.企業の研究職もあれば,大学などで研究を続ける道もあります.

専門職は,特定の分野について高度な技術力を持ち,難しい課題の解決や技術的な判断を支える仕事です.会社によっては,管理職とは別の専門職制度を用意しています.

技術テーマやプロジェクトのリーダーは,技術的な成果を出すために,複数人の仕事をまとめて進める役割です.人を動かす仕事はありますが,人事評価まで担当する管理職とは限りません.

そして管理職は,仕事の方向性を決め,人や予算を動かし,組織として成果を出す役割です.部下の育成や評価など,技術そのものとは違う責任も持ちます.

もちろん,これらは完全に独立した職種ではありません.研究者がプロジェクトを率いることもあるし,管理職が技術判断をすることもあります.制度や役割の分け方は会社ごとに違います.

だから「技術者として上へ行くなら,管理職になるしかない」と最初から決める必要はありません.まず,自分の会社にどんな道があって,何をすると評価されるのかを確認した方がいいと思います.

僕は専門職を目指して博士号まで取った.でも研究者にはならなかった

僕にとって,専門職は「管理職が嫌な人の逃げ道」ではありませんでした.本当に研究者に憧れていましたし,技術を極める道を考えて博士号も取りました.

ただ,博士課程で研究を続ける中で,スペシャリストとしてやっていくには,ものすごい力や興味が必要だと感じました.自分は本当に,その方向へ進み続けたい人間なのか.そこを考えたときに,どうも違う気がしたんです.

僕が理想としていた専門職は,高度な仕事を高い精度で仕上げられる人です.ところが,僕は論文でも誤字脱字をします.細かいミスがとにかく多い.技術的な判断は比較的得意でも,細部を間違えずに仕上げ続けることは得意ではありません.

もちろん,誤字脱字が多い人は研究者になれない,という話ではありません.研究の価値が誤字の数で決まるわけでもない.これはあくまで,僕が思い描いていた働き方と,自分の性質を比べたときの感覚です.

研究者って,今でもかっこいいと思います.

でも,かっこいいと思う仕事と,自分が実際に選びたい仕事は別でした.僕は人を見ることや,新しいテーマを立ち上げることも好きです.それなら,管理職という道の方が自分には合っていると思っています.

なお,博士号を取ったから管理職になれた,という単純な話ではありません.博士号と昇進の関係については,別の記事で詳しく書きました.

→ 博士号は出世に役立つ?大企業の技術職で管理職になった僕の実感

管理職になっても,技術者であることは変わらない

技術者が管理職になると,「もう技術はやらないの?」と聞かれることがあります.

僕の場合,自分で手を動かす時間はかなり減りました.それでも技術的な判断は普通にします.複数の案が出てきたときに,どちらが技術的に筋がいいのかを考えることもあります.

ただし,「技術力がない管理職には絶対にできない仕事がある」とまで言うつもりはありません.詳しい人に相談して判断することもできるし,管理職がチームで一番の専門家である必要もないと思っています.

それでも僕は,技術者として仕事をするなら技術力は大事だと思っています.管理職になったから,それまでの技術の勉強を全部捨てていいわけではありません.

ぶっちゃけ,技術が全然分からない技術者は,現場から舐められると思うんですよ.

技術的な会話ができることと,自分が誰よりも詳しいことは別です.少なくとも,自分の分野で何が問題なのか,どちらの案が筋がよさそうなのかを考えられる土台は持っていたいです.

そして管理職になった今は,自分で技術を使うだけでなく,新しい技術テーマそのものを作る仕事もできます.現場の困りごとや,将来必要になりそうなことからテーマを立ち上げて,チームで進めていく.

自分一人が技術を極める道とは違いますが,僕にとってはこれも技術者としての仕事です.

若いうちは技術をやる.でも専門職か管理職かは決めなくていい

では,若い技術者はどんなキャリアパスを考えればいいのか.僕なら,まず技術をしっかりやることを勧めます.

そもそも技術者なんだから,技術力は必要です.研究でも開発でも問題解決でも,自分が技術者として何をできるのか.まずはそこを作っておくことが大事だと思います.

技術職で出世する人に必要な能力については,以前の記事でも詳しく書きました.今回は出世のコツを繰り返すのではなく,将来の選択肢を残すという観点から考えます.

→ 技術職で出世する人の特徴|評価される人と出世する人は別物だった

技術を身につけたうえで,管理職という選択肢も残したいなら,僕はリーダー経験を取りに行くのがいいと思っています.リーダーをやると,人に仕事を頼むことも,人前で話すことも,判断することも必要になります.

僕自身も,リーダー経験や,人前で説明する経験が管理職への道につながったと思っています.研究や技術の仕事だけをしていたら,分からなかった人との関わり方もありました.

ただし,これは「若いうちに管理職になると決めろ」という話ではありません.

専門職を目指すことと,管理職へ進める経験を積むことは,最初からどちらか一つに絞らなくてもいいと思っています.技術を磨きながら,リーダー経験も積む.そのうえで,どちらの仕事を自分がやりたいのか考えればいい.

もちろん,実際にどちらの道へ進めるかは,会社の制度や募集枠,その時点の実績にも左右されます.努力さえすれば好きな役職を必ず選べる,という話ではありません.

それでも,早い段階で自分から片方の可能性を閉じる必要はないと思います.

今なら管理職を選ぶ.でも研究者はやっぱりかっこいい

僕は今,管理職の仕事が楽しいです.新しいテーマを作れるし,人やお金を動かせる.何より,技術者がそれぞれ成長して,自分で仕事を進められるようになるのを見るのがうれしいです.

一方で,研究者への憧れは今もあります.

この二つは,別に矛盾していないと思っています.研究者という生き方はかっこいい.でも,自分の得意なことや実際の働き方を考えたら,今の僕は管理職を選びたい.それだけです.

専門職か管理職かを考えるなら,肩書きだけでなく,実際に何をする仕事なのかを見た方がいいと思います.技術をどこまでも掘り下げたいのか.人や組織を動かして新しいテーマを進めたいのか.それとも,技術に軸足を置きながらプロジェクトを率いたいのか.

そして,会社の専門職制度と管理職制度で,権限や評価,待遇がどう違うのかも確認した方がいいです.僕の周囲では,専門職の肩書きや待遇が管理職ほど強くないと感じることもありますが,それがすべての会社に当てはまるとは思っていません.

僕自身は,専門職を目指した経験も,博士号を取ったことも,無駄だったとは思っていません.研究者になる道を本気で考えたうえで,今は管理職という道を選んでいます.

技術者のキャリアパスは管理職だけじゃない.そして,専門職を目指したからといって,管理職を選んではいけないわけでもない.

研究者はやっぱりかっこいいです.でも今の僕は,管理職が楽しいです.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考文献・参考資料

・パナソニックグループ採用情報「専門性を高め,役割にコミットする技術者の“新たなキャリアパス”」
https://recruit.jpn.panasonic.com/feed/new_careerpass.html

・独立行政法人情報処理推進機構「ITスキル標準とは-キャリアフレームワーク」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/itss/career-framework.html