「3歳児って,昨日・今日・明日をどこまで理解しているの?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
この記事を書いた人

ヌクレ博士と家族
ボス3歳:電車・お魚・虫が好き
クイーン0歳:標準よりも大きい
ママ・パパ:子供たちが大好き
うちのボス3歳は,「昨日」「今日」「明日」という言葉を普通に使います.ただし精度はかなり怪しい.1か月くらい前に行った旅行の話をしても「昨日行った」と言うし,数日後でもずっと先でも「明日する」と言います.

ただ,訂正すると聞き返して,ちゃんと言い直します.さらに親が「この前」という表現を教えると,それも使うようになりました.分かっていないというより,時間の言葉を少しずつ整理している途中に見えます.
僕には,ボス3歳の中で「過去=昨日,未来=明日」みたいな大きな箱が先にできていて,その中の距離がまだ細かく分かれていないように見えました.
これ,実際はどうなんでしょうか.では蓋を開けてみよう.
1か月前の旅行まで「昨日」になる
ボス3歳は,昨日の出来事だけを「昨日」と呼んでいるわけではありません.旅行やお出かけなど,1か月くらい前の出来事でも普通に「昨日行った」と言います.つまり我が家では,かなり広い範囲の過去が「昨日」に吸い込まれています.
未来側も似ています.「日曜日に買おうね」と数日先の予定を伝えても,「明日する」と言う.数日先でも,もっと先でも「明日」になるので,「昨日だけ間違えている」という話でもありません.
一方で,過去と未来そのものを完全に混同しているようにも見えません.訂正すると,知らない時間の言葉について聞き返すこともあり,言い直そうとします.親が「この前」という言葉を教えたあとには,その表現も使うようになりました.
だから僕の仮説は,「昨日」「明日」という言葉を知らないのではなく,まず過去と未来を大きく分けるラベルとして使っているのではないか,でした.
研究では「言える」と「大人と同じ意味で使える」は別だった

調べてみると,このズレは研究でもかなり面白いテーマでした.
2017年の『Cognitive Psychology』の研究では,英語を話す3〜8歳児を対象に,「yesterday」「tomorrow」「last week」「next week」などの時間語をどのように理解しているか調べています.「昨日」「明日」の難しいところは,「今日」を基準に指す日が毎日変わることです.論文では,子どもは2〜3歳頃から「yesterday」「tomorrow」のような言葉を使い始める一方,大人と同じような意味で安定して使えるようになるまでには数年かかると整理されています.
ここは重要です.「昨日」という単語を言えることと,「昨日=今からちょうど1日前」まで理解していることは同じではありません.
さらに2026年の『Child Development』では,アメリカとカナダの3〜4歳児121人を対象に「yesterday」「tomorrow」の理解を調べています.すると3歳児でも,自分が実際に経験した出来事について尋ねられた場合には,「昨日」「明日」の意味を理解できていました.一方で,架空の出来事を時間軸上で考える課題では,4歳児でも苦戦する子がいました.ここで示された理解は実験課題の中での理解なので,「3歳なら1日前と1か月前をいつでも正確に区別できる」という意味ではありません.
つまり,「3歳だから昨日と明日は分からない」と切ってしまうのも違うらしい.実生活の出来事なら分かることがある一方で,抽象的な時間として扱うのは難しい.時間理解は,ある日突然オンになる能力ではなさそうです.
なお,これらは英語圏の子どもを対象にした研究です.日本語の「昨日」「明日」にそのまま数値を当てはめることはできませんが,「時間語を使うこと」と「その意味を完全に使いこなすこと」を分けて考える材料にはなります.
「過去か未来か」と「どれくらい離れているか」は別らしい

2017年の研究で特に面白かったのは,時間語の理解を一つにまとめず,いくつかに分けて調べていたことです.
たとえば「昨日」についても,「過去側の言葉だと分かること」と,「先週より後だと分かること」と,「今からちょうど1日離れていると分かること」は別です.研究では,過去・未来の方向や時間語同士の順番に大人に近い理解が現れるのが4〜6歳頃だった一方,現在からどれくらい離れているかという距離の理解はさらに遅く,7歳以降に成人に近づいていました.
もちろん,これは実験課題の成績であって,「7歳まで昨日が分からない」という意味ではありません.2026年の研究では3歳児でも自分の経験なら理解を示しているので,課題によって見える能力も違います.
ただ,「方向」と「距離」は別という考え方は,ボス3歳を見ているとかなりしっくりきます.1か月前も「昨日」,ずっと先も「明日」になるのは,過去側か未来側かは大まかに扱えても,「今からどれだけ離れているか」の目盛りがまだ粗いと考えると説明しやすい.
僕の「過去=昨日,未来=明日」という予想は,完全な正解ではないけれど,かなり近いところを見ていたのかもしれません.
訂正すると聞き返す.だから何度でも正しく教えている

我が家で面白いのは,ボス3歳が間違いを指摘されても,「昨日じゃないの?」と押し通すわけではないことです.正しい時間の言葉を伝えると,聞き返したり,言い直したりします.理解しようとはしているように見えます.
だから僕は,聞かれたら一応ちゃんと答えています.曜日や「この前」といった正しい言葉を,その都度そのまま教える.一回で覚えられるとは思っていません.
子どもって,そういうものだと思っています.教えることは全部教えるけれど,一度で覚えてもらおうとはしない.何度も同じことを聞いて,何度も訂正されて,少しずつ言葉と時間がつながっていくんでしょう.
実際,楽しみな旅行の予定になると「明日?」「何月?」と何度も聞いてきます.以前,答えを知っているのに同じ質問を繰り返す理由も研究しましたが,今回の質問は本当に時間の距離を確認している可能性もあるので,同じ理由だとは決めつけない方がよさそうです.
→ 3歳はなぜ同じ質問を何度もする?答えを知っているのに聞く息子を研究した
大人には簡単な「昨日」と「明日」が,実はかなり高度だった

今回いちばん新鮮だったのは,「昨日と明日って,3歳にはこんなに難しいんだ」ということでした.大人からすると,昨日は前の日,明日は次の日.あまりにも簡単なので,子どももなんとなく分かりそうな気がします.
でも「昨日」という言葉は,今日が変われば指す日も毎日変わります.しかも「過去にある」「他の出来事より前か後か」「今から何日離れているか」を同時に扱わないと,大人と同じ意味では使えません.よく考えたら,かなり面倒な言葉です.
ボス3歳が少しずつ覚えているのもすごいし,そもそも人間がこんな抽象的な時間を言葉で共有できるようになったこと自体がすごい.子どもを見ていると,大人が何も考えず使っている機能の高度さに気づかされます.
今のところボス3歳の辞書では,過去欄のかなり広い範囲が「昨日」,未来欄のかなり広い範囲が「明日」です.でも「この前」も増えたし,訂正すれば聞き返して言い直す.少しずつ目盛りが増えている最中なんでしょう.
以上,ご清聴ありがとうございました.
参考文献・参考資料
・Maheshwari U, Barner D. “Back to reality: Children’s early temporal reasoning applies to real but not hypothetical events.” Child Development. 2026;97(1):248-260. doi:10.1093/chidev/aacaf019
・Tillman KA, Marghetis T, Barner D, Srinivasan M. “Today is tomorrow’s yesterday: Children’s acquisition of deictic time words.” Cognitive Psychology. 2017;92:87-100. doi:10.1016/j.cogpsych.2016.10.003
