管理職になりたくない技術職へ|なりたかった僕が感じたメリットと代償

管理職になりたくない

「管理職になりたくない」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.

最初に言っておくと,僕は管理職になりたくなかった側ではありません.むしろ逆です.社内の昇進プロセスに進めることになったときは,普通にうれしかったです.

理由もきれいごとだけではありません.給料は上げたかったし,出世したいというプライドもあった.昔,かなりしんどい管理職の下で働いた経験もあって,「自分はそういう管理職にはならない」と思っていました.

そして実際に管理職になった今どう思っているか.すごくよかったです.戻ってもう一度選べと言われても,たぶんノリノリで管理職を選びます.

ただし,管理職になれば全部ハッピーという話でもありません.技術へ使える時間は減ったし,人を評価する責任は重い.何より,部下とは以前ほど気軽に本音を話せなくなりました.

管理職になりたくない人が多いのも,普通に分かります.

では蓋を開けてみよう.

「管理職になりたくない」は珍しくない

2026年のレバテックIT人材白書では,現在管理職ではないIT人材のうち,「管理職になりたい」と答えた人は2割弱でした.一方,「ほとんどそう思わない」「全く思わない」は合わせて57.0%です.

管理職になりたくない理由で最も多かったのは,「責任やストレスが増えそうだから」の44.7%.その次に「適性がないと感じる」「技術者としての専門性を磨きたい」が続きます.逆に,管理職になりたい人の理由では,「給与・報酬を上げたい」が47.8%で最多で,「意思決定の権限を持ちたい」「組織への影響力を広げたい」も続きます.

これを見て,かなり面白いと思いました.僕が管理職になりたかった理由,ほぼそっちです.お金も欲しい.もっと決めたい.自分のやりたいことを動かしたい.

一方で,管理職になりたくない側が心配している責任,人間関係,技術から離れることも,実際に管理職になってみると確かに存在しました.

もちろん,この調査はIT人材を対象にしたものなので,技術職全体へそのまま一般化はできません.ただ,厚生労働省の2018年の分析でも,管理職への昇進を希望しない理由として,責任の重さ,仕事量や長時間労働,現在の職務を続けたいこと,部下を管理・指導する自信のなさが挙げられています.

管理職になりたくないのは,別に変な選択ではありません.

僕は最初から出世したかった.お金もプライドもあった

僕の場合,管理職への昇進を迷っていたわけではありません.出世したかったです.

お金は大事です.実際,管理職になって収入は十分に増えました.忙しさについても,僕にとってはだいたい想定していた範囲です.「時給換算したら割に合わない」という考え方も分かりますが,少なくとも僕自身は,それで管理職になったことを後悔していません.

そして,プライドもあります.僕はかなり負けず嫌いです.過去に嫌な思いをさせられた管理職を見て,「いつか見返したい」という気持ちもありました.

もう一つ大きかったのは,自分が苦しい経験をしたからこそ,「弱い立場の人をいじめない管理職になりたい」と思っていたことです.部下を見て簡単に「無能」「できない奴」と切るような管理職にはなりたくなかった.

なので,僕にとって管理職は「仕方なく引き受けた罰ゲーム」ではありませんでした.自分から取りに行った仕事です.

技術職で出世するときに何が評価されるのかは,以前の記事でかなり詳しく書きました.今回の記事では「どうやって出世するか」ではなく,実際になったあとに何を得て,何を失ったかに絞ります.

→ 技術職で出世する人の特徴|評価される人と出世する人は別物だった

管理職になってよかったのは,「動かせる範囲」が広がったこと

管理職になってよかったことはいくつもあります.給料が増えたのも普通にうれしいです.

でも,仕事として一番楽しいのは,自分がやりたいテーマを作って動かせることです.僕はもともと,新しい仕事を作るのが好きです.現場の困りごとを見つけたり,将来必要になりそうなことを考えたりして,新しいテーマを立ち上げる.管理職になると,そこに人やお金を使える範囲が一気に広がりました.

リーダーだった頃にも提案はできました.でも管理職になると,チームの目的やビジョンそのものを決められる場面が増えます.僕は「将来性があって,みんながワクワクできること」を作るのが好きなので,これはかなり楽しいです.

もう一つ,大きいのが人の成長です.自分のチームで成長を実感している人って,表情が明るくなるんですよ.自信を持って,たくさん話してくれるようになる.それを見ると,普通に幸せです.

昔の僕は技術屋になりたくて,人そのものにはあまり興味がありませんでした.でも今は,部下の成長を見ることが管理職を続けたい一番の理由になっています.

管理職になると,自分一人が成果を出す仕事から,みんなが成果を出せる環境を作る仕事へ比重が変わる.僕には,今の仕事の方が合っています.

もちろん代償はある.「本音で話せる人」は減った

管理職になって失ったものもあります.

技術へ使える時間は明らかに減りました.今も技術判断や必要な技術業務には入りますが,自分がずっと手を動かして専門性を掘る時間は以前より少ないです.そこは普通に代償だと思っています.

ただ,管理職になったから技術と完全に切れたわけではありません.自分が技術を深める時間は減った一方で,チームのみんなが技術を深められる環境は作りやすくなりました.自分一人ではなく,チーム全体で技術を伸ばす側に回った感覚です.

技術職なのに技術以外の仕事が増える違和感については,別の記事でも書いています.管理職になるとその比重はさらに変わりますが,「技術をやりたい」という感覚自体が消えたわけではありません.

→ 技術職なのに事務作業ばかり?契約業務で技術者が辞めていく理由

そして,僕にとって大きかった代償が,人間関係です.部下には,何でも本音で言えるわけではありません.「もっと頑張ってほしい」と思うこともあるし,普通にイラっとすることもあります.でも,管理職がその感情をそのまま部下へぶつけるわけにはいかない.

慣れるまでは,これがまあまあつらかったです.だから家族や友達,気兼ねなく話せる人が前よりずっと貴重になりました.立場を外して,ただ楽しく飲んで話したいと思うこともあります.

管理職になると権限は増える.でも,同じチームの人たちとは立場を外して話しにくくなる.これはなってみて強く感じた代償でした.

責任は重い.特に「人を評価する側」になるのはしんどい

管理職で一番重いと感じるのは,人を評価することです.

みんな頑張っています.でも管理職になると,その人たちに評価をつけなければならない.全員へ無責任に「君は頑張ってるから大丈夫」と言えたリーダー時代とは違います.

特にしんどいのは,評価を決める瞬間より,その結果を本人へ伝えるときです.自分の伝え方でモチベーションを落とすかもしれない.最悪の場合,その人が辞めるきっかけになるかもしれない.

この責任は重いです.

上からの要求と現場の事情の間に立つこともあります.僕は自分の考えと違えば上とは戦います.それでも負けることはある.そのときに「上が言ってるから仕方ない」と部下へ流すのは嫌です.一度自分が受け止めた以上,自分の意見として伝えます.

人のせいにはしない.

僕は,こういう責任を引き受けることが管理職の仕事だと思っています.だから,責任を持つこと自体がどうしても嫌なら,無理に管理職にならなくてもいいと思います.これは優劣ではなく,役割との相性です.

「管理職になりたくない」は尊重する.でも僕は楽しい

ここまで書いてきましたが,僕は「技術職なら管理職を目指せ」とは思っていません.

技術だけを深めて働く人生も,普通に楽しそうです.責任や複雑な人間関係を増やしたくないという考えも分かります.自分が本当にやりたい技術の道があるなら,そちらを選ぶのも普通にありです.

ただ,もし「管理職になりたくない」という気持ちの中に,「なんとなく怖い」「大変そう」というイメージだけがあるなら,一つだけ言いたいです.

管理職,楽しいですよ.

少なくとも僕は,なってよかったです.給料は増えた.権限も増えた.自分のやりたいテーマを動かせるようになった.そして何より,人が成長して,自信を持って楽しそうに働く姿を見るのがうれしい.

もちろん代償もあります.責任は重いし,評価はつらいし,本音で話せる相手は減る.技術だけに使える時間も減りました.

それでも,もう一度選べと言われたら僕は管理職を選びます.

たぶんノリノリで.

管理職にならない選択は尊重します.でも,将来どちらにも行ける「選べる側」にいることは,悪くないと思っています.

以上,ご清聴ありがとうございました.

参考文献・参考資料

・レバテック株式会社「レバテックIT人材白書2026」

・厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析 第2-(3)-27図 役職に就いていない職員等における管理職への昇進希望等について」