「3歳児って,どうやって文字を覚えていくの?」というテーマについて,ヌクレ博士が研究します.
この記事を書いた人

ヌクレ博士と家族
ボス3歳:電車・お魚・虫が好き
クイーン0歳:標準よりも大きい
ママ・パパ:子供たちが大好き
結論から言うと,3歳でひらがな・カタカナをかなり読めて,一部の漢字まで拾って読むのは比較的早い側です.
ただし,「漢字が読める=発達全体が早い」という話ではありません.
うちのボス3歳は,最近ちょっとだけ漢字を読むようになりました.
とはいっても,「3歳で新聞が読めます」みたいな話ではありません.全然そんなレベルじゃない.「川」は読めるけど「川崎」は全部読めないです.
でも,漢字を読んでいることに初めて気づいた瞬間が面白かった.
きっかけは山手線でした.
「山手線」という文字を見て「やまのてせん」と読んでいたボス3歳が,ある日「手」という漢字だけを見て,
「のて!」
と言ったんです.
おおおお.漢字を一文字ずつ認識してるじゃん.すげえ.
……いや,でも「のて」ではない.
そこが最高に3歳でした.
ひらがなを覚えたと思ったら,すぐカタカナに行った
そもそも最初から漢字を教えていたわけではありません.
まずひらがなです.「これはこう読むんだよ」と少し教えたり,本やひらがなのポスターを買ったりしました.
すると,想像していたよりはるかに早く覚えました.1週間もかからなかったと思います.気づけばひらがなをほぼ全部読めるようになっていました.
せっかくなので,外を歩いているときにも看板のひらがなを読ませて遊んでいました.
そんなある日,ボス3歳が突然,
「ドア」
と読みました.
カタカナです.
まだ教えてないんですけど.
「え,カタカナも分かるの?」
となったので,今度はカタカナのポスターを買いました.すると,これまた1週間もかからずにほとんど覚えました.
その約1か月後くらいから,今度は漢字を拾って読むようになってきました.
こちらが「次は漢字を勉強しましょう」とカリキュラムを組んだわけではありません.本人が勝手に文字を見つけて,
「これなに?」
と聞くので答えていたら,いつの間にか次へ進んでいました.
3歳でここまで文字を読むのは珍しいのか?
ちょっと気になったので調べました.
日本の研究では,かな文字の読みは個人差がかなり大きいものの,おおむね4歳ごろから始まるとされています.就学前には,多くの子どもがかな文字を読めるようになってから小学校へ入ります.
なので,3歳でひらがなとカタカナをほぼ読めて,漢字にも少し入っているのは,比較的早い側ではありそうです.

ただし,ここはかなり個人差があります.
昔の大規模な日本の調査でも,同じ3歳児グループの中にほとんどひらがなを読めない子もいれば,ほぼ全部読める子もいました.しかも「3歳」といっても3歳0か月と3歳11か月では全然違うので,「3歳で漢字を読めたから上位何%」みたいな言い方はできません.
だから今回は,
「うちの3歳児,天才でした!」
という結論にはしません.
ぶっちゃけ,親なので「すげえ!」とは思っています.
でも,それより僕が面白いと思ったのは,覚えている途中の間違い方でした.
「のて」「ひとくち」「川崎」から頭の中が少し見える
さっきの「手=のて」がまさにそうです.
ボス3歳にとって最初の「手」は,「手=て」ではなく「山手線の“のて”」だったらしい.
「そうそう,山手線の“のて”だね.でも手だけだったら“て”と読むよ.おてての“て”だよ.漢字は難しいねー」
と話しました.
正解ではない.でも,ただ適当に答えている感じでもない.
知っている「山手線」という言葉を,自分なりに文字へ分解しているように見えます.
ほかにも「入口」を見て,
「ひとくち」
と読んだことがあります.
最初は笑ったんですが,よく見ると「入」と「人」って似てるんですよね.
幼児のかな文字の読み間違いを調べた研究でも,形が似ている文字ほど間違えやすく,特に文字を覚え始めた時期には形の類似による読み間違いが多いことが報告されています.
つまり「ひとくち」も,めちゃくちゃな間違いというより,ちゃんと字の形を見た結果の間違いなのかもしれません.
「川崎」も面白いです.
「川」は読めます.でも「崎」はまだ分からない.それでも「川」という一文字と,今いる場所や駅などの情報から,
「川崎?」
と推理します.
全部の文字を読めなくても,知っている文字を手がかりに言葉全体を当てにいく.
大人も読めない漢字が出たとき,似たようなことをやっている気がします.
文字そのものが好きなのかもしれない
調べていて,今回一番「これかも」と思った研究がありました.
2024年に日本の4歳児を対象に行われた研究では,かな読みの習得には認知能力だけでなく,文字や読みへの興味も関連していました.
ここでいう「興味」は,文字の読み方を親に聞いたり,生活の中で文字を見つけたり,自分から読もうとしたりする行動です.
これ,めちゃくちゃやってる.
ボス3歳は外を歩いていても,
「あの漢字はなんて書いてるの?」
と聞いてきます.
公園に行けば遊具で遊ぶだけじゃなく,遊具に貼ってある注意書きを一生懸命読んでいます.魚の図鑑も好きなので魚の名前も読もうとします.まだ知らない言葉も多いので,当然読み間違いもします.
しりとりも好きです.
文字のポスターを見せて無理やり暗記させたというより,文字そのものを面白がっているところにポスターを置いたら,本人が勝手に「これなに?」を繰り返したという方が実態に近いです.
もちろん,「文字に興味を持たせれば1週間でひらがなが全部読める」という研究ではありません.今回見つかったのはあくまで関連です.
でも,好きだから何度も見る.何度も見るから覚える.覚えると街中でも読める文字が増える.するとまた面白くなる.
このループはかなりありそうです.
読めるのに,まったく書きたがらない
そしてもう一つ面白いことがあります.
これだけ読むのに,ボス3歳は文字をほぼ書きません.
絵もあまり描きたがりません.どうも失敗するのが嫌みたいです.
ただし,棒などを並べて文字の形を作ることはあります.そして,そのときはよく鏡文字になります.
「読めるなら書けるんじゃないの?」
と思ってしまいますが,調べてみると,読みと書きは同じ能力ではありません.日本の幼児を対象とした研究でも,読みと書きでは関係する認知能力に違いが見られ,書く方では文字の形を正確に捉えて再現する力がより関係していました.
さらに,文字を覚え始めた子どもが左右を反転した鏡文字を作ること自体も珍しくありません.
人間の視覚にはもともと,右向きでも左向きでも同じ物体として認識する性質があります.犬が右を向いても左を向いても犬です.
ところが文字は面倒です.
向きが変わると意味が変わったり,正しい文字ではなくなったりする.読み書きを覚える中で,「文字では向きまで区別しなきゃいけない」と少しずつ学んでいきます.
ボス3歳は「人」とカタカナの「ト」を見て,
「似てるね」
とも言います.
確かに,文字を「意味のある記号」ではなく「線の組み合わせ」として眺めたら,似ている部分はある.
この辺を見ていると,文字を完成形として覚えているというより,線や形を比べながら,自分なりに文字というシステムを解析している途中なのかもしれません.
今のところ,教えるより「聞かれたら答える」でいいかな
今回調べてみて,「3歳なら漢字を○文字覚えさせるべき」みたいな結論には全くなりませんでした.
僕自身も,無理やり覚えさせるつもりはありません.
ただ,本人が興味を持っているならどんどん覚えてほしいと思っています.だから「これなに?」と聞かれたら答えるし,興味がありそうならポスターや本を置いてみる.
今のところはそれくらいです.
読み間違えても,ボス3歳はあまり気にしません.
「間違えちゃった」
と笑うこともあるし,訂正すると真剣に聞いて覚えようとすることもあります.
書く方は失敗が嫌でやりたがらないのに,読む方は間違えても平気.この差も面白い.
親としてできることは,「正しく読め」と急かすことより,今の「文字って面白い」を潰さないことなのかもしれません.
「手」を「のて」と読める時期なんて,たぶんそんなに長くない.
そのうち普通に「て」と読むようになるでしょう.
そう考えると,間違いを直すだけじゃなくて,今しか見られない変な読み方も楽しんでおこうと思います.
以上,ご清聴ありがとうございました.
参考文献・参考資料
- 「4歳児における読み書きの興味はかな読み習得の関連要因である」LD研究,2024
- 「幼児の仮名文字の読み誤りパターンに影響する文字要因」発達心理学研究
- 「年長児におけるひらがなの読み書きに影響する認知要因の検討」音声言語医学
- Blackburne et al.「Neural Correlates of Letter Reversal in Children and Adults」
